「富士山ローソン」問題 黒い目隠し幕にたくさんの穴、なぜ区分けしなかったのかスピン経済の歩き方(2/6 ページ)

» 2024年06月05日 06時22分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本が「オーバーツーリズム」を解決できないワケ

 この不毛なイタチごっこを見ていると、日本がなかなか「オーバーツーリズム」を解決できない理由がよく分かる。

 それは一言で言ってしまうと、「観光地のトラブルは、観光客のマナーが良くなれば解決する」という昭和の思い込みだ。

 日本はこの手の問題が起きると、外国人観光客に「服従」と「反省」を求めるのが一般的だ。つまり、「地域住民に迷惑をかけないようルールを守りましょう」とアナウンスをしたり、今回のように「あんたらの行いが悪いのでもう撮影禁止にします」という懲罰的な規制をしたりするのだ。

富士山ローソンと同じようにSNSで話題となった富士吉田市の「本町二丁目交差点」周辺では、歩行者の迷惑行為が相次いでいたことから駐車場を設けた(撮影:熊谷ショウコ)

 ただ、この連載でも繰り返し述べているが、世界の観光政策の現場では、こういう体育会運動部のようなノリは効果がないことが分かってきている。宗教も価値観も社会制度も異なる人たち、しかも移住のために来日したわけでもなくわずか数週間ほどしか滞在しない外国人観光客に、その国のモラルやルールを押し付けたところでそれを忠実に実践できるはずがない。

 「だったら日本に来るな! 日本を観光したいのなら日本の文化を覚えて、日本語を勉強してこい!」と怒りでどうにかなってしまう人もいるが、そのような考え方を外国人観光客に押し付けても効果がない。こうした現実を世界中に知らしめたのが、何を隠そうわれわれ日本人なのだ。

 1980年代、日本人観光客は今の中国人観光客以上に世界で鼻つまみ者だった。イタリアでは日本人観光客がローマ元老院議場の大理石の床を記念に削って持ち帰ったことが問題視され、ドイツでは静岡の金融機関の団体客が文化財になっている建物に「○○信用金庫一行」とヤンキーみたいな落書きをして謝罪した。米国の『TIME』誌に「世界の観光地を荒らすニュー・バーバリアン」という不名誉な特集まで組まれるほど、日本人は「観光公害」の象徴だったのである。

 そんな「日本人観光客問題」を解決しようと、欧米の観光地は今の富士河口湖町みたいな対策をしたが、残念ながらそれほど効果はなかった。教会や寺院に日本語で「フラッシュ禁止」という看板を立てたが、その横で日本人観光客がミサやざんげをする人をバシャバシャ撮影するというトラブルが多発したのだ。

 では、そんな日本人観光客がどうやって、サッカーW杯会場でのゴミ拾いに象徴されるような「世界一マナーのいい観光客」へと成長したのか。日本人の生活水準が向上して海外経験のある人が増えたこと、そして「教育」のたまものである。つまり、観光客の振る舞いは結局、その国の民度によるところが大きいのだ。

 こういう日本人観光客が示した歴史の教訓から、世界では「オーバーツーリズムはマナーを叫んでもなにも解決できない」というのが常識となったのである。

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