冒頭でも紹介した『ONE PIECE』『SPY×FAMILY』『鬼滅の刃』などマンガやアニメから人気を集めたキャラクターには、そのストーリーから生まれる魅力が存在します。
仲間とひたむきに夢を追うルフィの姿勢に感銘を受けますし、かわいらしい見た目と声を持つアーニャには母性のような愛着を感じます。
キャラクターにストーリーがあることで、そのキャラクターへの共感性が増し、愛着を覚えやすくなる効果があるのではないでしょうか。実はキャラクタービジネスのパイオニアであるディズニーも、基本的には出自となるアニメストーリーがあり、そこで強固に設定されたキャラクターの性格が存在します。
一方で、日本のキャラクタービジネスを支えてきたサンリオのキャラクターたちには、出自となるメディアは存在しません。
いくつかのキャラクターは誕生後にアニメ化しているものもありますが、アニメやマンガから派生してキャラクターが人気になっているわけではないのです。かの有名なハローキティですら、最初期は名がなく暫定的に「名前のない白い子猫」などと呼ばれていました。姓にあたる「ホワイト」は後の設定変更で付け加えられたものです。
大人になってもサンリオキャラクターを支持するファンの心理を考えてみると、子どもの頃から親しんできた存在から過去の楽しい思い出や安心感が呼び起こされたり、かわいらしい見た目や優しいフォルム、色使いなどのデザインから安らぎを得られたりすると考えられます。
こうした魅力から、日本のみならず世界中で愛されるキャラクターを多く生み出してきたサンリオですが、ビジネスでは厳しい低迷期も経験しました。2000年頃の第1期ブーム、2011年頃の第2期ブームが過ぎ去ってから、市場の変化と競争の激化により、従来のキャラクター展開だけでは消費者の心を掴むことが難しくなったのです。
この背景には、先述の通り、ストーリー性を強く持ったキャラクターたちのヒットが影響していると考えられます。特に、デジタル化の進展とともに、アニメや漫画がスマホで自由なタイミングで閲覧できるようになったことや、スマホゲームとのコラボレーションによりキャラクターとユーザーの接点がこれまで以上に増えたことも要因の1つになっているでしょう。これによりサンリオの売り上げは徐々に減少していきました。商品の多角化や新たな市場開拓に挑みましたが、結果は苦戦……経営は厳しい局面に立たされました。
ところが、その後の2022年から、同社は7期続いた減収減益をV字回復と呼べるまでに成長させました。この背景には、2020年に社長へ就任した辻朋邦氏が主導した組織改革により、マーケティング専任部署を設立したことがあるといわれています。
それまでサンリオは、ハローキティの大ヒットによりライセンス事業の営業がしやすく、長くマーケティング専任の部署がありませんでした。マーケティング部署が設立されてからは、しっかりとキャラクターのポートフォリオを作成し、長期的な観点でブランディング施策が検討されるようになったそうです。
また、辻社長のインタビューでは、もう1つの大きな組織改革として、経営チームへの若手社員の登用も挙げられています。デジタル化に伴うエンターテインメント業界の急速なトレンド変化についていくため、70代の経営メンバーの退職を機に経営チームの平均年齢を15歳も引き下げたそうです。
ユーザー参加型のイベントやキャラクター開発、Web3、教育コンテンツといった展開を始めており、これが成功すれば、さらなる成長も想定されます。
筆者がキャラクター人気に大きく支えられた「きせかえサービス」を運営していた当時、上司からこんな例え話を聞いたことがあります。「普段から弁当を持って行く人にはキャラクターの弁当箱が売れる。一方で、弁当を持つ習慣がない人にはキャラクターがついているからといって弁当箱は売れない」
キャラクターは、商品を選んでもらう理由やその商品への愛着にはなれど、買う必要がないものを買う理由にまではならないということです。
キャラクターの視覚吸引効果によって、その商品に一時的に興味を持たせることはできます。ただ、その商品自体に十分な魅力がなくては、購入はもちろんファンとして継続的な購買につなげるのも難しいでしょう。さらに、キャラクターの人気は一過性であり、世代やトレンドの変化を考慮すると、その効果は良くも悪くも変化しやすいものであると捉える必要があります。
キャラクターに限らず、視覚吸引効果の高いものがマーケティングに活用されているケースは多く見受けられます。しかし、一時的な視覚吸引による購入を期待するのではなく、商品を使い続け、ファンになるほどの愛着を持ってもらうためにはどうすべきか。マーケティングフェーズと一貫した商品自体の魅力創出や長期的に接点を継続させる体験設計が求められます。
マーケティング施策とロイヤルティ施策を切り離して考えるのではなく、ユーザーを起点にキャラクターの接点と関係作りを考えることが、安定した売上向上につながることは間違いありません。
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