「支給日まで在籍しない社員には賞与を与えない」「支給日直後に辞める社員の賞与を、大幅に減額した」──こうした企業の対応は、労働法上、違法にあたるのでしょうか? 過去の裁判例などを紹介しながら解説します。
賞与の支給要件として、支給日に会社に在籍していることが就業規則に規定されている場合、算出期間に在籍していても、支給日より前に会社を辞めた場合の賞与は支給されません。
この点について、疑問に持つ人は少なくないかと思われます。なぜなら、給与ではこの対応が違法になるからです。月末締めの翌月〇〇日払いとなっていた場合、6月末で会社を辞めても6月分の給与は支払われます。
しかし賞与に関しては、支給日に在籍していない場合、支払わなくても違法になりません。賞与の支給日在籍要件の効力を判断した判例としては、大和銀行事件判決(最高裁1982年10月7日)があります。
この裁判は、賞与の支給日(6月中旬)前に退職した従業員が、もらえなかった賞与の支払いを求め裁判で争いました(会社は就業規則に従い、この従業員には賞与を支給しなかった)。最高裁まで判決がもつれましたが、賞与は労働に対応して発生する“賃金”と異なり、労使間の合意や使用者の決定を待って支給がその都度確定されるものという会社側の主張が認められました。
経営者の立場からすると、賞与は過去の労働に対してというよりも、これからの活躍や離職防止のために支払うという意図があります。一方で従業員は、査定期間に在籍していたのであれば賃金と同様に賞与をもらう権利があるという意識があるため、裁判に発展しました。
会社側の主張が認められた背景には、賃金と異なり賞与は支払わなくてはいけないという義務が労働法で定められてないのも理由の一つだと考えられます。
ただし次のような場合には、退職者が賞与の支給日前に会社を辞めたとしても、企業側に支払いの義務が生じます。
年俸制は、年間に支払う総額を便宜上、月割りなどに振り分けたものと考えられます。つまり、年額を20等分し、毎月に1ずつおよび6月と12月の賞与時に4ずつ支払うと取り決めている場合などです。年俸制では、給与・賞与の名前は考慮せず、年間に支払う全額を賃金として考えますので、期間に応じた差額の支払い義務が生じます。
会社の業績不振などによる整理解雇である場合は、退職日を本人が決められないため、支給日在籍用件は適用されず、支給対象期間中の勤務期間に応じた賞与を支給すべきです。
定年による退職も一般的には、60歳の誕生日を迎える日が属する月の末日などと就業規則で定められていますので同様に扱われるものと思われます。しかし定年退職日は「会社都合の退職と異なり、あらかじめ予測できるため払わなくてもよい」という説もありますので、会社の判断となります。
その他、支給日在籍要件が有効だとしても、「賞与の支給日を故意に遅らせること」はNGです。例えば「賞与の本来の支給日は6月20日であるものの、6月30日に退職することが決まっている社員Aへの賞与の支給を避けるために、支給日を7月5日に後ろ倒しにする」といった状況です。
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