新時代セールスの教科書

採れない、育たない、続かない……データから読み解くインサイドセールスの深刻な課題

» 2024年07月04日 08時00分 公開
[ワタリユウタITmedia]

著者プロフィール:ワタリユウタ

株式会社wib代表

資料作成を通じたマーケティング支援サービス「スゴシリョ」を主軸に事業展開し、その姉妹サービスであるインサイドセールス支援サービス「スゴアポ」のβ版を、2024年春から提供開始。

10年前にスタートアップの世界に足を踏み入れて以来、ビジネスマッチングサービス「PRONIアイミツ」やリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ assistant」といったB2B企業の役員として、新規事業の立ち上げや顧客開拓、マーケティングなど、事業拡大に関わるさまざまな経験を積んできた。


 「転職者が相次いで人手が足りない」「せっかく人材を確保できても、戦力になるまでに時間がかかってしまう」……インサイドセールスでは、長年深刻な人手不足が続いています。

 この連載では4回に渡り、インサイドセールス領域における市場の現状やリアルな課題、成功している企業の共通点について、筆者の経験談を交えながらご紹介します。

 第1回にあたる今回の記事では、さまざまな企業が公表しているインサイドセールスに関する調査データを紹介しながら、この業種の抱える構造的な課題について触れていきます。

他職種の10倍……営業職の深刻な人手不足

 少子高齢化を背景とした労働力人口の減少やデジタル化が進み、求められる知識やスキルが変化したことにより、日本全体で人材不足が深刻化しています。

 エン・ジャパンの調査によると、日本全体で人材が不足している中でも、特に営業職の人手不足が他の職種と比べて高いことが分かっています。「CxOや経営層を採用できない」「DX人材が不足している」という話はよく耳にしますが、実は営業職の不足はそれらの10倍近くに達しており、多くの企業が苦労しています。

特に営業職の人手不足が他の職種と比べて高い(出典:エン・ジャパン「2022年企業の人材不足実態調査」)

 インサイドセールス支援サービスを提供するSALES ROBOTICSが実施した「インサイドセールスの内製に関する市場調査」では、採用できないこと以上に人材の育成に時間がかかることが課題として挙げられています。実に採用の約1.5倍の結果となっています。

人材の育成に時間がかかることが課題(出典:SALES ROBOTICS株式会社「インサイドセールスの内製に関する市場調査」)

 また、その他の項目では、そもそもインサイドセールスに関するノウハウがない、育成の方法が分からないといった問題も指摘されており、これらが人材育成に時間がかかる原因となっていることが分かります。全ての課題を解消するために企業が苦労している様子が垣間見えます。

せっかく採用しても「根付かない」

 せっかく採用できたとしても育成できないのでは悩みは尽きません。

 近年では人材の流動性も高まっており、従業員の転職や離職が頻繁に発生しています。日本には約400万社の企業がありますが、その平均勤続年数は12.7年というデータがあり、人材の確保と定着が大きな課題となっています。

 加えて、インサイドセールスの平均勤続年数は日本の平均勤続年数と比べて圧倒的に短いというデータが示されています。インサイドセールスの在籍期間は18カ月以下が約6割、平均は17.6カ月です。

インサイドセールスの在籍期間は18カ月以下が約6割を占める(出典:immedio「インサイドセールス白書2024」)

 さらに、あと何カ月インサイドセールスとして業務を行いたいかを問う質問では、平均「14.2カ月」となりました。つまり、インサイドセールスとして一社に勤務する期間は、合計で約32カ月、2年半ちょっとです。

現在のインサイドセールス職を続けたい期間はわずか2年半(出典:immedio「インサイドセールス白書2024」)

 日本企業全体の平均勤続年数が12年であるのに対し、インサイドセールス職の理論上の平均はわずか2年半ということが、2つのグラフから読み取ることができます。

 インサイドセールスは企業にとって人手不足の職種であり、働いている人にとっても長く勤めるような仕事にはなっていないという実態が分かります。困っているのはあなたの会社だけではありません。日本全体として営業職やインサイドセールス職を組織として率いること、強いチームを作ることが難しくなっています。

 インサイドセールスという言葉が広まる前の時代には、そもそも「インサイドセールスとは何か」や「The Modelとは何か」「どんなメリットがあるのか」といった理想論・空論的な記事が多く見られました。

 しかし、これからの時代は理想を掲げるだけでは通用しません。人が不足し、育成の難易度が高く、そのうえ人が辞め続けるという現実のもと、私たちは今、何をすべきかを地に足をつけて考える必要があります。

 この連載記事では解決策として、より実践的なインサイドセールスの採用、組織作り、戦力化、内製できない場合の選択肢であるインサイドセールスのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)について触れていきます。

成功の鍵を握る2つのポイント

 インサイドセールスを成功させる上で大事なのは、リストと組織(人)です。これは全ての企業に共通しています。

 少しかみ砕いて説明すると、適当なリストを使っていては、どれだけ優秀な人が電話をかけてもアポイント率は上がりません。例えば、思い付きで購入した的外れなリストでは、効果的な営業活動は期待できません。MRR(Monthly Recurring Revenue、月次経常収益)が高い商談も生まれにくいでしょう。

 また、どれだけ質の高いリストを自分たちで作成しても、電話をかける人たちの目標達成意識が低い場合、結果は出ません。顧客の課題に気の利いた一言を添えるなど、効果的にアプローチできる人材がそろっていないと、どれだけ良いリストを持っていても成果は得られないのです。

 つまり、インサイドセールスの成功には、質の高いリストを用意すること優れた人材をそろえることが不可欠です。この2つの要素がそろうことで、初めて強力な営業チームを構築し、効果的なセールス活動を展開することができます。

採れない、育たない、続かない……インサイドセールスでは「人材」課題が山積み(iStockより、写真はイメージ)

 冒頭でも述べたように、今回は採用・育成の難しさや、人材の流動性を背景とした人材確保が社会全体の課題となっていることを紹介しました。インサイドセールスがうまく機能している企業の事例にも触れ、その重要なポイントについてご理解いただけたかと思います。

 より具体的に何をすべきかについては、この記事では全てを紹介しきれませんでしたが、次回の記事では、スゴアポというサービスを立ち上げてきた私たちの視点から、具体的な方法を詳しく紹介していきます。

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