新型コロナウイルスの流行による移動制限やリモートワークへの移行により、日本でも対面を基本としたワークスタイルから、オンラインでの活動が定着しました。営業活動においては、対面式の商談ができず顧客の動きが見えづらくなる中で、見込み客創出のためのマーケティング活動や、リードから契約獲得へつなげるインサイドセールス部隊の発足など、昨今ではオンラインを軸とした営業活動が浸透し始めています。
オンライン、オフラインを駆使したハイブリッドな営業活動で企業間競争が激しさを増す中、この競争を勝ち抜くための一手となる可能性を持つのが、自社が理想とする企業群へのアプローチを事業開発的に行うインサイドセールス部隊の「BDR」です。米国のテック企業では、2010年代から主流になっています。
BDRの正式名称は「Business Development Representative」、頭文字をとってBDRです。「事業開発営業」として、規模の大きなエンタープライズ企業との取引を開拓し、将来的に大きな販売実績を獲得することを目標とします。エンタープライズ企業を開拓できれば、ブランド価値の向上、長期目線での収益拡大が期待できます。
マーケティングと連携し、広告やメルマガなどの施策で獲得したリードにアプローチを行うインバウンド型の「Sales Development Representative(SDR)」 と異なり、BDRはターゲット企業に対して、電話、メール、SNS、イベントなどさまざまなアプローチを通じて、「ゼロから商談機会を作る」インサイドセールスと説明されることが多いです。
米国企業の成長にBDRはどのように寄与しているのでしょうか? また、日本でも同様にBDRの需要が高まるのでしょうか? グーグルジャパンで営業統括部長、freeeで営業統括役員を歴任し現在はMagic Momentの代表を務める村尾祐弥が解説します。
インサイドセールスとは、電話、メール、オンライン会議などを用いて非対面型で営業活動を行う手法です。販売プロセスの初期段階を担い、一般的にはインサイドセールスが見込み客の興味・関心を商談レベルまで引き上げた後、フィールドセールスが商談を実施し、クロージングを目指す――という流れで営業活動が進みます。BDRはインサイドセールス手法の一つで、後述するSDRと大別されます。
BDRとSDRの役割の違いとして、BDRは顧客単価が高いエンタープライズ企業の攻略法となる「ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)戦略」と相性が良く、ABMの一環として米国では多くの企業がBDRを取り入れています。
ABMは、特定の企業を開拓するために、ターゲットを絞り、対象ごとにパーソナライズされたコミュニケーションで顧客開拓を行う手法です。市場全体に商材をアピールすることを目的とした包括的な取り組みではなく、個別企業自体を市場として捉え、より個別具体的なアプローチを行う点が特徴です。
BDRのアプローチ対象には、まだ接点のない新規顧客のほか、休眠・失注リードも含まれており、両社で商談機会を作る役割を担います。ターゲット企業側が自社について興味を示していない段階でアプローチをするため、アポイントメント獲得の難易度は高くなります。
また、特定顧客に興味を持ってもらうために、そのターゲットに向けたコンテンツを作成し送付する、接点を作るためにコミュニティに参加する、限定ウェビナーを開催する、といった活動も行います。
一方、SDRはマーケティング効果で創出された「インバウンド」に対してアプローチをします。顧客が自社製品・サービスをあらかじめ知っているため、アポイントメント獲得の難易度が比較的低く、リードが興味を失う前に動き、魅力を伝える「スピード感」が必要となります。オンラインでの営業活動の浸透が進んできた日本のインサイドセールスは、現在多くの場合、後者の「SDR」と近い役割を担っているのではないでしょうか。
米国企業がABM戦略とBDRを取り入れる理由の一つは、マーケティング効果に依存することなく、質が高い見込み客を創出することができ、非連続な事業成長に寄与するためです。
Gartnerの調査から、BDRが創出するリードの約40%が商談機会に転換するのに対し、SDRによるインバウンドだけでは転換率はわずか5%にとどまるというデータが出ています。
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