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リードの40%が商談化!? 米国式インサイドセールス「BDR」の実力とは(3/3 ページ)

» 2023年11月09日 08時00分 公開
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BDRの組織・事業拡大がけん引した米国企業の成長

 米国企業でBDRが浸透した背景には、前述した通り市場成長と競争激化があります。新しい顧客や機会を継続的に探し出すことが不可欠になる中で、企業経営の視点からは決済金額が小さく、マーケティング経由の間接的なアプローチが中心のインバウンドだけではなく、決済可能金額が大きい部長役員以上のレイヤーへの直接的なアプローチを行うBDRの有効性が高まりました。

 例えば、マーケティング効果で生み出される商談での導入ID数が平均して月に30アカウントだとした時に、10万人規模の大企業との商談機会がどれだけ価値が高いかは明白でしょう。

 SDRの活動源となるインバウンドは、マーケティング施策の中で時間をかけて関係値を育む必要があるため、単純に人を増やせば商談機会が増えるという構造ではありません。加えて、コンテンツや広告などのマーケティング効果だけで、提案機会を作りたい特定企業、さらにはその中でも決裁権を持つレイヤーを獲得するのは、非常に難易度が高いです。

 BDRは販売プロセスの初期段階に位置しているため、後続プロセスよりも変数が少なく、営業プロセスを標準化しやすい点も特徴です。マーケティングドリブンのSDRよりも、BDRはアポイントの質と量をコントロールできるため、再現性のある組織を作り、採用や育成ができれば、事業の成長スピードを上げられます。

営業 再現性を担保できれば、マーケティングドリブンのSDRよりも早く事業成長を牽引できる

 大手企業をターゲットとしたABM戦略の中でBDRが担当する役割は、「何が何でもアポイントを取得する」、コールドコールを実行することではありません。

 決裁に関わるキーマンの情報収集商談機会や既存取引先の他部署とのつながりの創出アップセルやクロスセルのためのアプローチなど多岐にわたります。ABM戦略に重点を置く企業にとって、BDRの導入は事業成長に直結する可能性を秘めています。

BDR、日本企業も導入すべき?

 ここまでのご説明で、BDRの存在意義についてはご理解いただけたと思います。ただし、自社の営業組織でBDRを立ち上げることが全ての企業にとってメリットになるとは限りません。

 BDRは「人」が変数になります。上述で「BDRはアポイントの質と量をコントロールできるため、再現性のある組織を作り、採用や育成ができれば、事業の成長スピードを上げられる」と言及しました。逆をいえば、人材採用力がない場合は、事業をスケールさせることが難しいのです。

 また、再現性のある組織を作るためには、定常的なモニタリングの仕組みや個人のスキル習熟を促す組織設計など組織横断の取り組みが必要であり、難易度が高いことから企業がつまづく要因になります。

 企業フェーズによっても、BDR組織が必要な場合とそうでない場合があるでしょう。事業立ち上げの段階では、まだ世の中に自社製品やサービスが認知されていない状況のため、価値訴求を行いたいターゲットとの接点を作れるBDRは有効です。

 一方、リリースから時間がたち、自然流入の問い合わせが増えている場合は、BDR・SDRを組み合わせた営業活動や、SDRのみで効率的に温度感の高いリードのフォローを行うオペレーションが最適である場合も想定されます。

 BDRは直接的には売り上げには結び付かず、購買単価が高い商材でなければ案件創出時点でROIを出すことは難しいです。LTVの観点も考慮し、自社組織にとっての必要性を明確にした上で、組織の立ち上げを検討してください。

 今後、自社のビジネスモデルや事業フェーズに合わせて、BDR組織の立ち上げや拡大に着手する企業も増えてくるかもしれません。次回は自社で導入する際の具体的なイメージができるよう、BDR組織の立ち上げステップを解説します。

筆者プロフィール:村尾 祐弥 株式会社Magic Moment

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中央大学法学部卒業後、2社を経てGoogle Japan、freeeで営業部門の統括及び責任者として事業成長を牽引。2017年にMagic Momentを立ち上げ、2018年9月より経営を本格化。累計資金調達額20億円(DCMベンチャーズ、DNX Ventures、三井物産、ほか)。LINEやUSEN、凸版印刷等、多くのエンタープライズ企業の営業変革を人・テクノロジー・オペレーションの全方向から支援。2021年にローンチした営業AI行動システム Magic Moment Playbook は、SMBの大量解約の時期を乗り越え、現在はエンタープライズ企業の生産性向上、LTV向上を非連続に実現している。


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