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生成AI時代にリーダーは不要? 岡田武史さんが元・松尾研のAI研究者と考えた(1/2 ページ)

» 2024年07月05日 09時05分 公開
[園田昌也ITmedia]

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生成AIでデジタル戦略はこう変わる AI研究者が語る「一歩先の未来」

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【概要】元・東京大学松尾研究室、今井翔太氏が登壇。
生成AIは人類史上最大級の技術革命である。ただし現状、生成AI技術のあまりの発展の速さは、むしろ企業での活用を妨げている感すらある。AI研究者の視点から語る、生成AI×デジタル戦略の未来とは――。

 日々進歩する生成AI。生産性が上がる、仕事が楽になるというより、今後のキャリアやスキル形成への悩みから、生成AIに関心を抱く読者のほうが多いのではないだろうか。

 生成AIが浸透することによって仕事はどう変化するのか。6月7日、都内で開かれた「Atlassian TEAM TOUR Tokyo 2024」では、サッカー日本代表元監督の岡田武史さんと、東京大学松尾研究室出身のAI研究者・今井翔太さんが対談した。

サッカー日本代表元監督の岡田武史さん(左)と、東京大学松尾研究室出身のAI研究者・今井翔太さん(以下、写真はアトラシアン提供)

 AI時代にこそ、リーダーの人間性や、チームメンバーの主体性が問われるという。その真意とは――。

岡田武史(おかだ・たけし)株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。早稲田大学卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団し、日本代表選手にも選ばれる。 現役引退後は指導者としての道を選び、ジェフ市原のコーチを経て、1995年にサッカー日本代表のコーチに就任。1997年に日本代表監督に抜擢され、1998年のフランス大会(日本初出場)、2010年の南アフリカ大会(日本初のベスト16入り)と、2度のW杯を戦った。2012年には中国のクラブチームの監督を務めるなどした後、2014年に株式会社今治.夢スポーツ代表取締役に就任。2016年より現職
今井翔太(いまい・しょうた)AI研究者。1994年、石川県金沢市生まれ。東京大学 大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻、松尾研究室に所属。博士(工学、東京大学)。人工知能分野における強化学習の研究、特にマルチエージェント強化学習の研究に従事。ChatGPT登場以降は、大規模言語モデル等の生成AIにおける強化学習の活用に興味。著書に『深層学習教科書 ディープラーニング G検定(ジェネラリスト)公式テキスト 第2版』(翔泳社)、『AI白書2022』(角川アスキー総合研究所)、訳書にR. Sutton著『強化学習(第2版)』(森北出版)など

「人間を動かすには、人間じゃないと」

 今井さんによると、生成AIがあらゆる分野で人類の知的能力を上回るのは時間の問題だという。

 「約20万年前にホモ・サピエンス(現生人類)が登場して以降、人間より賢い存在は地球上のどこにも存在しなかった。われわれは人類史上初めて、人間よりも賢い存在(生成AI)を見ている状況です」(今井さん)

 機械に人間と同等以上のことができるのなら、人間に作業させる必要はない。一方で今井さんは人間の役割はなくならないと強調する。

 「政治も全部AIに任せようという意見も見かけますが、絶対に失敗しますよ。人間社会は人を動かさないといけない。それは人間じゃないとダメ。AIを使うにしても、最終的に解釈して伝える人が必要です」(今井さん)

 AIが出す意見は基本的には正論だ。しかし、それを機械に示されても、人の心が動くかには疑問があるという。人間は「お気持ちの動物」だからだ。

 「人間に残ることは『人間らしさ』しかないはず。お気持ち的なところ、感情的なところ。生成AIが生活に浸透すると、その人が本当に『いい人』かどうか、『話していて楽しいか』といったところが重要になると思います」(今井さん)

 数値的な根拠、確からしさを超えて、「この人だから付いていく」と思わせる人間的魅力や、コミュニケーション能力に富んだリーダーが求められるのではないかという。

人間がやるべきこと(今井翔太さんの資料より)

リーダーの決断力はどこから生まれる?

 そもそもリーダーとはどういう存在なのか。数々のチームを指導してきた岡田さんは「リーダーシップには百人百通りの在り方がある」と前置きしつつも、共通点のひとつとして「決断すること」をあげる。

 「リーダーはたったひとりで、全責任をもって決めなくてはいけない。例えば、ワールドカップにどの選手を連れていくかとかめっちゃ怖い。論理的に考えても答えは出ないわけです」(岡田さん)

 大会に連れて行けるのは23人、そのうち一度にピッチに出せるのは11人だけ。どれだけAIの予測が発達しても、未来を予言できるわけではない。決断し、結果に責任をとるのは監督だ。

 「最終的には直感なんですよね。でも、選手が不貞腐れるんじゃないかとか、マスコミに叩かれるんじゃないかって思っているときは絶対に当たらない。無心に近いような状態のとき、ふっと出てくる。ただ、そんな簡単には(チームの勝ちだけを考えられるような無心には)なれない」(岡田さん)

 コツをあげるなら「どん底を経験していること」。岡田さんの場合、それは日本代表が初めてワールドカップ出場を決めた1997年のアジア最終予選だった。

付いていきたくなるリーダーは何が違うのか?

 前任監督の更迭で、急遽ヘッドコーチから昇格。ホーム戦で引き分けたあと、暴徒化したサポーターからバスに向かって生卵を投げられるなど、一時は予選敗退の危機もあった。

 「自宅に脅迫状や脅迫電話がきて、24時間パトカーがとまっていました。(代表決定戦の開催地になった)ジョホールバルから妻に電話して、『明日もし勝てなかったら、日本に帰れない』って。本気でそう思っていました」(岡田さん)

 だが、その数時間後に腹が決まり、生命の危険が少ない時代にあって、生存のための「遺伝子のスイッチ」が入ったという。

 「明日急に名将にはなれない。今持っている力を100%出して、アカンかったらしょうがない。国民の皆さん申し訳ございませんと謝ろうと思った。でもこれ、俺のせいじゃないな。俺を選んだ(日本サッカー協会)会長のせいやと(笑)。こう思った瞬間に完全に開き直って怖いものがなくなったんですよ」(岡田さん)

 どん底を経験し、腹を括った人間は強い。口には出さなくても、腹の底にある強い覚悟は周囲に伝わる。

 「要するに人がこのオッサンに付いていこうと思うのは、別に聖人君子やお金持ちだからじゃない。夢や目標に向かって死に物狂いでリスクを冒してチャレンジしている人を見たら、この人に付いていこうかと思うんですよね」(岡田さん)

リーダーの「人間力」が問われる瞬間

 ただし、いくら必死になっても、独りよがりなら人心が離れてしまう。

 「大事なのは、ありのままの自分をさらけ出すこと。だんだんと『間違っていた』『知らない』『ごめん』って言えなくなる。そこでありのままの自分をさらけ出す。これが人間力なんだけど、そうなったときに人が付いてくる」(岡田さん)

 付いてきてくれるメンバーに対しては、ミーティングや1on1などコミュニケーションも大切だが、何より「存在を認めてあげること」が重要だという。

 「例えば、ウォーミングアップでコーチが『この前の練習試合でのトラップからのシュートは素晴らしかった。アレ忘れるなよ』と声をかけると、選手の顔がパッと明るくなる。要は『1年間、俺はお前を1回も試合に使わないかもしれないけど、お前を見ているよ。必要としてるよ』って伝えること。これが一番大事なんですよ」(岡田さん)

 共通の目標を掲げ、ときにはありのままの自分をさらけ出し、お互いの存在を認め合うこと、そして実際に結果を出すことで、チームワークは強固になっていくという。

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