岡田さんの話を受けて、今井さんは「生成AIの登場で、世界中の人たちの『遺伝子のスイッチ』が入り始めている」と語る。
生成AIが発達していけば、個々人の生産性は飛躍的に上昇するとともに、能力差は小さくなる。より人間らしさや、人間にしかできないものに意識が向くようになるという。
一方、岡田さんは、環境問題を例に「過去のデータが役に立たない時代が来ている」と指摘する。過去のデータがなければ、現在のAIには正解を導きだすのは難しい場合がある。今後、そんな未知のものへの対応が人間の仕事になってくる。
「やってみないと分からないから半分は失敗する。エラー&ラーンの時代です。スーパーヒーローではなく、多様な人に自分自身がリーダーだって思うぐらい主体性を持たせて、巻き込んでいくことが重要になる」(岡田さん)
どうやれば、そんな自立性・自律性が生まれるのか。一例としてあげられるのが、岡田さんが考案した「守破離」をベースにした「岡田メソッド」だ。サッカーのプレー原則を言語化し、それを身に着けるための体系的なトレーニングが用意されている。
きっかけは、スペインの有名なコーチから「スペインにはサッカーの型がある」と聞かされたこと。創意工夫に富んだ自由なプレーの背景には、16歳までに型を落とし込み、あとは選手たちに任せるという指導法があったのだ。
実は岡田メソッドには生成AIにも共通する部分があるという。今井さんは研究者目線で次のように語る。
「もともとAIは囲碁や将棋のように、何か特定の目的に特化して学習してきました。しかし、今の生成AIはWeb上からテキストを大量に集めて、人間の言語の背後にある一般原則みたいなものを知っておけば、特化した学習をしなくても何でもできるというもの。人間でもAIでも何らかの一般原則を獲得していくのは重要で、岡田メソッドは理にかなっています」(今井さん)
生成AIと同じように原則を学び、人間にしかできないことに挑戦すると言い換えることができるかもしれない。そもそも問題を立てて、主体的に動くことこそが、人間とAIの違いとも言える。
今井さんは元サッカー少年。2010年の南アフリカワールドカップ以来の岡田さんファンだといい、「岡田監督のように熱くて人間的に素晴らしい人がAI時代に目指すべき人物」と激賞。岡田さんは「何かこそばいな(笑)」と照れた様子だった。
今井さんの「人間に残ることは『人間らしさ』しかない」という言葉は重い。生成AIが生活に浸透し、生産性が向上した後の世界に残るのは「この人だから付いていく」と思わせる人間的魅力を持ったリーダーであるようだ。
その魅力の源泉は、岡田さんが言うように「どん底を経験していること」なのかもしれない。どん底を経験していることによって腹を括れるようになれるからだ。どん底を経験するためにはさまざまな機会にチャレンジして行動する必要がある。
生成AIによって生産性が向上した世界においても、リーダーが不要になることはない。
園田昌也(そのだ まさや)
1987年熊本県生まれ、主に福岡県育ちの「ゆとり第一世代」。大学時代、ネットメディアでライター活動を開始。卒業後の2012年4月、熊本日日新聞社入社。2016年3月、弁護士ドットコムに入社し、ニュース編集部副編集長、季刊誌『弁護士ドットコムタイムズ』編集長を経て、現在はテック分野の調査・研究に従事。
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