高まる「言語化力」の重要性 どのように鍛えればいいのか?十人十色な「キャリア安全性」

» 2024年07月08日 08時30分 公開

連載:十人十色な「キャリア安全性」

一社で長く働くというこれまでの日本のキャリア観は、コロナ禍を経て完全に過去の話と化した。キャリアは会社が与えてくれるものから、自分が築き上げるものになった。それは、今所属している場所が、自分に成長や安心感を与えてくれる場所なのか──そうした「キャリア安全性」を誰もが求めるようになったともいえる。VUCA時代において、多くの人に当てはまる「最適解」はもはや正解ではない。十人十色なキャリア安全性について考えてみよう。

 仕事上のコミュニケーションで、言語化力の高い人の表現の的確さに感心することはないだろうか。

 「会社のプレゼンテーションの場で緊張して頭が真っ白になり、準備していたことが話せなかった」「相手の反応を気にしてしまい、途中で自分の話の主旨が分からなくなった」「感想を求められた際に『すごい』『ヤバい』しか出てこなかった」など、自分の気持ちや考えを伝えるのに難しさを感じることは、私たちの生活の中でよくある。

言語化力の重要性が高まっている(画像:ゲッティイメージズより)

 商談の中で伝わったと思っていたけど実は伝わっていなくて、結局契約につながらなかったなど、「どう伝えれば伝わったんだろうか」と悩むこともあるかもしれない。お互い同じ言語を使っているのに的確に伝えるのはなかなか難しい。

 自分の思考や感情を具体的な言葉に変える力を「言語化」という。筆者はビジネスパーソンに向けて研修を行うことも多いが、ここ半年、この「言語化」について説明することが各段に増えた。

なぜ、ビジネスパーソンは「言語化力」を重視するのか

 なぜか。いくつか背景はあるだろうが、1つはリモートワークの影響が大きいと思われる。コロナ禍で半強制的にリモートワークを体験し、それまでの対面でのコミュニケーションが、テキスト(文字)に置き換わることはひときわ増えた。

 話せば分かることでも、文字にして伝えるには少し表現の仕方が変わってくる。普段の生活においても、LINEのようなツールの利用頻度が増え、文字でのコミュニケーションがぐんと増えていたところに、ビジネスにおいてもTeamsやチャットなどでの文字コミュニケーションの場面が増えたことで、仕事もプライベートも文字によるコミュニケーションの割合が圧倒的に増えているのは皆さんも体感している通りだ。

 また、昨今のデータ重視の傾向が強まる中で、データの示す内容や分析結果を分かりやすく伝えることがより求められるようになってきたこと、大量の情報から必要な情報を正確に伝える必要性が高まっていることなども、言語化スキルの重要性を後押ししている。

 こうしたビジネスにおける潮流は当然個人にも影響を及ぼす。自己PRとして、自分をアピールするスキルは以前から必要だったが、最近ではパーソナルブランディングの一環としてSNSなどで個人の意見を発信する機会も増えている。

 「表現力」「可視化する力」「明文化」といった言葉は以前からあったが、社会背景の変化に伴い、より抽象的で複雑なものを言葉で表現するスキルとして言語化の必要性が高まっているといえる。

 情報を正しく伝え、相手に理解してもらうスキルがビジネスにおいて重要ということは明白だ。なぜならそれが自分の「信頼」につながるからである。

  • 相手が混乱しないよう、明確な説明や指示を行う
  • 相手に安心感を与えるために、複雑な状況を分かりやすく説明する
  • 共感を得るために、相手の立場や感情を理解し、それに応じた言葉や矛盾のない説明をする

 こうした上司がいるとどれだけ安心だろうか。また、あなたがもし管理職の場合、上記のことをできているだろうか。

 信頼に必要な要素はたくさんあるが、一番の根源になるものは、その人の発言が嘘なく事実に基づいていることだ。明瞭で一貫性のあるコミュニケーションから信頼は生まれる。言語化スキルを磨くことは信頼されるビジネスパーソンになるために必要不可欠である。

信頼されない上司トップ3(画像:マンパワーグループ「職場におけるストレスやコミュニケーションについての調査」より)

言語化力、どのように鍛えればいいのか?

 では、どのように言語化力を身に付けていけばいいのだろうか。

 日本語には「理解語彙」と「使用語彙」がある。理解語彙とは、個人が読み聞きするときに理解できる言葉のこと、使用語彙とは、個人が話したり書いたりするときに使える言葉のことである。

 言語化というのは、この「使用語彙」を増やすことである。そのために筆者が実践中なのは以下の3つだ。

  1. 読書と書く習慣をつける
  2. 類語を確認する
  3. 得た情報や学んだことを話す機会をつくる

 書籍はビジネス書でも小説でも詩集でも何でもいい。そこにある「気になった表現」を確認し、どういうときに使えそうか考える。そして、個人ブログやXなど何でもいいので書く習慣を獲得していく。または気になった表現をNotionなどどこかに貯めておくでもよい。書き出しておくのが大事だ。

 2つめは、あまり実践している人は多くないかもしれないが、個人的には一番効果を感じている。例えば「検討する」の類語を調べてみると、「吟味する」「精査する」「一考する」「勘案する」「考慮する」「考証する」「考究する」「慮る」など40くらいの語彙が出てくる。なるほど、そういう言い方があるのか、と学びになることが多いし、それらをすぐにメールやビジネス文書で使うことで自分の使用語彙にしていく。

 1つ目と2つ目は「文字にする力」だが、3つ目は「話し言葉にする力」だ。読んだ本、今日見たニュース、バラエティやドラマなど番組の内容、起きた出来事を家族や友人に話す機会をつくる。それが相手に伝わるかどうか確認する。言葉に詰まったら「なんていえばいいんだろう。こんなあんなことだよ」と思いのまま伝えみて、聞き手の変換力を頼って、自分の言語にしていくことも多い。

 これらを毎日のように実践することで言語化スキルが身に付くのではないかと思っている。もちろんより回答らしいものを知りたいなら、ぜひChatGPTに「言語化スキルの付け方を教えてください」と聞いて、自分ができそうなものから試してみてほしい。

 日々使う言葉のスキルをあげるに必要なのはとにかく毎日実践することであり、それが自分の信頼と影響力を高める鍵になる。それらがキャリアを築く上で欠かせないことは言うまでもない。起きた事実だけでなく、気持ち・感情を的確に表現できれば自分自身のストレスも減る。まずは自分のためにも少しずつ言語化トレーニングを始めてみるのはいかがだろうか。

著者紹介:法政大学キャリアデザイン学部 兼任講師 なかむら アサミ

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法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻修了。修士(経営学)。

2006年サイボウズに中途入社。人事、広報、ブランディングに従事するほか、チームワークに関する研究や、他企業の研修実績も多数。

著書(共著)に『わがままがチームを強くする』(朝日新聞出版)『サイボウズ流テレワークの教科書』(総合法令出版)。『わたしからはじまる心理的安全性〜リーダーでもメンバーでもできる「働きやすさ」をつくる方法70〜』(翔泳社)

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