しかしながら欧州で1914年に第一次世界大戦が勃発したことで様相が一変する。戦争によって欧州全体が疲弊し、革命の機運が広まった結果、ドイツ帝国(ホーエンツォレルン家)、オーストリア=ハンガリー帝国(ハプスブルク家)、ロシア帝国(ロマノフ家)という専制君主制国家が崩壊。オスマン帝国でもトルコ革命が始まり、のちに崩壊する。
帝国主義が終わって、国民国家による主権在民の時代が始まる。それは今日的意味での自由経済の始まりである。すなわち貴族社会の消費の衰えを意味し、スーパーカービジネスを支えるマーケットの縮小がやってきた。多くのメーカーはここで方針を転換し、大衆車の時代が本格的に訪れるのだ。
第一次大戦以前はパクスブリタニカ、または「帝国の世紀(Imperial Century)」と呼ばれ、イギリスが産業革命の果実として栄華を誇っていた。しかし戦勝国であったはずのイギリスは、第一次大戦後の経済疲弊が激しく、追い討ちを掛ける様に世界に広がった革命と民族自決の流れで、多くの植民地が独立した。
ヴィクトリア女王の時代(在位:1837年6月20日- 1901年1月22日)に繁栄を極めた大英帝国が没落し、世界の覇権は米国に移る。新大陸アメリカでは、英国への戦時借款債権による利益に加え、物資不足の欧州への輸出の急増、さらに国内経済でも自動車による物流と消費の拡大がこれを大きく後押しして、1929年の世界恐慌発生までの約10年間「繁栄の10年間(Prosperity Decade)」と呼ばれる時代を迎えるのである。
この米国に覇権をもたらした経済発展こそが、自動車と経済の蜜月の始まりであり、この後、自動車産業の勃興が国の経済発展に巨大な影響を与える7世代の流れが次々に起こっていくのだ。
1960年代の日本、1990年代のEU、2000年代のASEAN、2010年代の中国、2020年代のインド。このシリーズではその流れを順番に追いながら、自動車の発展と経済振興の関係を考えていきたいと思う。
自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。
1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。
著者自身のオウンドメディアであり、「事実に基づき論理的・批判的に思考し、しかしいかなる時も希望を持って」発信するディレクターズカット版の自動車コラム「池田直渡の『ぜんぶクルマが教えてくれる』」をnote
いまさら聞けない自動車の動力源の話 ICE編 1
53年排ガス規制との戦い いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 2
日本車のアメリカ進出 いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 3
ターボの時代 いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 4
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