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世界の電子決済アプリが1つにつながるか 電子マネー・プラットフォームの覇権を狙う(1/2 ページ)

» 2024年07月16日 08時55分 公開
[武田信晃ITmedia]

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 日本においてキャッシュレス決済は、クレジットカードを除くとSuicaなど交通系の電子マネーが最初に広く一般に普及した。今ではPayPay、楽天ペイ、d払いなどQRコード決済が年々、アジアを中心に存在感を増している。

 QRコードは世界中で使われていることから、決済業者は世界展開が容易だ。加盟店側も専用端末を導入する必要がなく経営コストを抑えられるメリットがある。

 米国に本社を置くTBCASoftは2016年に創業。ブロックチェーンを使うことによって通貨が異なっても世界中でQRコード決済ができるプラットフォーム「HIVEX」を開発した。TBCASoftのLing Wu創業者兼CEOに、HIVEXを開発した意図と、事業展開について話を聞いた。

TBCASoftのLing Wu創業者兼CEO

国境と通貨の違いを超える QRコード型の電子決済プラットフォーム

 新型コロナウイルスの期間中は、非接触という観点から日本を含む世界中でキャッシュレス決済が進化し、一気に普及した。新型コロナが終わると海外旅行が復活したものの、世界各国・地域で独自に発展したキャッシュレス決済のアプリやソフトに互換性がなかったため、あくまでドメスティックなサービスにとどまっていた面がある。そこに互換性を持たせ、おのおのが使っているキャッシュレス決済システムを外国でも使えるようにしようとしたのがHIVEXだ。

 分かりやすく説明すると、シンガポール人の観光客が日本で旅行をし、お土産の支払いを、普段シンガポールで使っているQRコード系電子マネー決済アプリ「NETS Pay」のアプリで支払おうとしても、今までは支払えなかった。

 しかしHIVEXは、国境や通貨、決済アプリの違いを越えて決済できるシステムを開発したのだ。23年10月、台湾系の「街口支付(JKO Pay)」「全支付(PXPay Plus)」「玉山(E.SUN Wallet)」という3つのQR決済アプリは、日本国内のPayPay加盟店であれば利用可能となった。国も通貨も異なるアプリが、ある種の互換性を持つことになったわけだ。それを下支えして実現させたのがHIVEXということになる。

 3つのQRコード決済アプリで、台湾人はより気軽に日本で買い物をしやすくなった。インバウンド消費に貢献することは間違いない。反響は大きく、サービス開始から3日間で、47都道府県で越境決済がされていることを確認したという。

個人データは取得せず 時間、通貨、金額、店舗の情報を取得

 収益源を聞くと「エンドユーザーには一切、課金をしていない」と話す。通常、クレジットカードを海外で使用すると米国なら3%、台湾では1.5%、日本でも1〜3%の海外取引手数料をチャージされる。だが「HIVEXは0%」だと話し、クレジットカードとの違いを強調した。その上で「収益は加盟店からのみです。日本ならば、加盟店がPayPayにお金を払いますが、その支払われた金の一部がHIVEXに流れてくる仕組み」だと説明する。

 「クレジットカードは請求書がくるまで、いくらのレートで決済されたのかが分かりません。一方QRコード決済の場合は、決済時に画面にレートが表示されるので、総額がいくらなのかが分かります」

 これは、HIVEXが決済時のレートが表示できるようにするAPIを用意しているから可能なのだという。競合としては、アリババが提供する「Alipay+」などがある。

 個人情報の保護については、国や地域によって異なる法律が定められているため、どの企業も慎重に取り扱う。

 「HIVEXは、名前や年齢などの個人情報を収集したり、共有したりはしません。例えば、台湾人が日本で観光した際、加盟店はユーザーの購買データを取得しますが、PayPayとHIVEX側には一切提供されません。逆も同じです。HIVEXが決済時に取得し、クライアントと共有するデータは時間、通貨、金額、店舗名の4つだけです」

“Less is More”

 個人情報を取集しないのは、エンドユーザーにとっては好ましいのかもしれない。だがHIVEXにとっては詳細な情報を取得できないため、弱みになりそうな気もする。

 「QRコード決済業者はユーザー情報、PayPayは加盟店情報、HIVEXは4つの取引データを、AIを使って分析します。この3つの情報に自社のAIを適用するビジネスを作っており、HIVEXに個人情報がなくてもビジネスが成立するようにしたいと考えています」

 手数料収入だけでは経営的に心許ない。それ以外にどんな方法で売上高を伸ばそうとしているのか。答えはこの4つの取引データの活用法にあった。

 「例えば、HIVEXは台湾の街口支付など3社のQRコード決済事業者の取引履歴を持っています。もちろん、HIVEXは年齢や性別など誰なのかは分かりません。もし、あるドラッグストアが美白の商品を台湾人に売りたいのでキャンペーンをしようとします。台湾のQRコード決済事業者はユーザー情報を持っていますから、それに合わせて彼らのアプリを使って個別にキャンペーンを実施します。その結果、台湾人客が店を訪れ、美白商品の購入につながるとドラッグストア側からお金が入ってきます。一種の成功報酬です」

 前述した通り、HIVEXは4つの取引情報だけで、個人情報は取得しない。

 「HIVEXのユーザーは個人情報の悪用という心配事が減るので、逆に信頼され、取引量が増えるのです。私は新しいデータの使い方だと思っています。『Less is More』(少ない方がより豊かになる)ですね」

 このビジネスを成功させるには、第1段階として「日本と台湾の両市場でしっかりビジネスを確立することが重要」だと考えているという。観光庁が3月に発表した「訪日外国人消費動向調査」の2023年暦年調査結果(確報)の概要によると、1位は台湾の7835億円。つまり来日した台湾人が、いつも使っているQRコード決済を日本で使ってもらうことが、そのままビジネスになるのだ。

 第2段階のカギは、消費額で全体の75%を占める2位の中国から第9位のベトナムまでの国と地域で、どこまで市場を拡大できるかだ。いずれはHIVEX経由でも、中国・香港、米国、タイなどのQRコード決済事業者もPayPay加盟店で利用可能にするのが目標だという。Ling Wu創業者兼CEOは「実現すれば、インバウンドの8割弱をカバーできる」と話す。

 第3ステップとして「日本での成功事例を海外に輸出すること」を挙げた。「もちろん、日本人がこれらの国や地域に行ったときも、訪日外国人客と同じように使いやすい環境を準備していきたいと考えています」。

「訪日外国人消費動向調査」の2023年暦年調査結果(確報)の概要
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