「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。
モノや情報が溢(あふ)れる中で、「パーソナライズ」や「カスタマイズ」は、今や当たり前になっています。SNSやEC、ニュースサイトのおすすめ欄など、趣味趣向に合った情報がわたしたちを飽きさせないほど並ぶことにも慣れてきました。
日経クロストレンドが発表した、2024年上半期の「今後伸びるビジネスランキング」によると、マーケティング分野で最も経済インパクトの値を伸ばしたキーワードは「パーソナライゼーション」なんだとか。
閲覧履歴や検索ワードを基にした商品・コンテンツのレコメンド機能やユーザー自身が自由にカスタマイズできることは、競合との差別化ポイントになり得ます。その重要性は日に日に増しているため、数年後には、パーソナライゼーションが標準装備になっているかもしれません。
ユーザー目線になると、検索して探す手間が省けることのラクさや、自分好みであることの心地良さはなんとなくイメージできるものの、カスタマイズするのに逆に手間がかかったり、値が張ったりするデメリットも容易に想像できます。
ではなぜ、こんなにもパーソナライゼーションが注目されているのでしょうか。今成長を続けるパーソナライズ/カスタマイズ商品を例に、その背景にある社会情勢と人間心理の関係や、古くから唱えられてきた哲学の観点を交えながら、ユーザー体験を起点に考察します。
特定の商品に対して、ベースとなる状態から自分好みにカスタマイズできること自体は、特に新しい概念ではありません。「オプション」といえば、車や住居、オーダーメイドスーツ(ドレス)、結婚式など高価格帯の分野では以前から見受けられる選択肢であり、単価向上の手段であるともいえます。
身近なところでは、ラーメンのトッピングも一種のカスタマイズといえそうです。また、化粧品業界では店頭で美容部員がその人の肌の特徴や状態にあった商品を実際に試してもらったり、おすすめしたりすることで、高価な化粧品でも買いたいと思える付加価値を提供してきました。
今は、スマホがあれば同様の体験を作り出せます。スマホカメラで撮影した顔写真にAIの画像解析を組み合わせることで、さまざまな化粧品を試せて、似合う・似合わないを判断できます。インターネット上での簡易的な診断結果を踏まえて、商品を提案することで「あなたの好みに合った商品である」という印象を持ってもらい、購買意欲を高める手法が増えています。
例えばエアークローゼットやメチャカリといったファッションレンタルサービスでは、好みのスタイルや「周りにどのような印象を与えたいか」などいくつかの質問に答えると、診断結果を基にしたファッションアイテムを毎月定額で届けてくれます。
こういったサブスクリプションは食の領域にも波及しています。複数の質問から成る診断を経て、自分の好みや家族のライフスタイルに合うおやつや食事を定期的に届けてくれるサービスも多くのユーザーから支持されているようです。
こういった診断コンテンツは、購入のきっかけとしても機能します。買うつもりはなかったとしても、「自分だったらどういう結果になるんだろう」という興味を醸成し、「せっかく選んだのだから」「自分に合う商品があるのだから」という診断結果によって購入を後押しします。
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