何よりSUVには「目新しさ」という魅力があった。薄く長いボディが魅力だったのは1980年代から90年代。その後のミニバンブームにより箱型の大きなボディの需要が急激に高まっていった。
しかしミニバンのような大きくて車高の高いクルマは、重心が高いだけでなくボディ剛性が低く、乗り心地を確保するためにもサスペンションを柔らかくしなければならない。操縦安定性や高速走行時の安定性を高めることが難しくなるのも当然だった。
そこでトヨタはエンジンを水平近くまで傾け、ミッドシップとすることで室内空間を確保しながらハンドリングや高速安定性を高めたミニバンを開発、販売にこぎつけた。これは「天才タマゴ」のキャッチフレーズでヒット。のちにボディサイズを縮小して5ナンバー枠も実現し、大ヒットとなった。
ところが、自動車税制が改正されて、ボディサイズにかかわらずエンジン排気量で自動車税額が決まるようになると、ボディサイズへの制約が一気に緩くなる。
それもあって、その後のミニバンはFF(前輪駆動)であってもハンドリングや高速安定性を高いレベルで確保するよう開発が進められ、走りのレベルも格段に向上していった。これは手抜きや退化のようにも見えるが、実際にはユーザーが受けられる恩恵を最大化し、コストを抑えて売れるクルマを作り出す賢い手段と言える。
つまりセダンならば無理なく実現できる性能を、異なるボディ形状でも実現できるよう努力してきたのが、この20年の日本車の歴史であったとも言える。セダンでなくてもいい、となるのは当然の帰結だったのだ。
一方、セダンを開発するエンジニアは、無理なく余裕の仕事をこなしていただけかと言えば、そんなことはない。ライバルよりもスタイリッシュで快適に、ハンドリング性能や高速安定性を高めるよう、重箱の隅を突くような地道な改善、進化を続けてきたのだ。
それでもセダンと比べると、これまでにないボディ形状で乗車感や使い勝手も違うSUVのようなクルマは、ユーザーにとって新鮮に感じる。せっかく買い替えるなら、そうした刺激を感じたいと思うのも自然なことだ。
売れるクルマを作るのは企業として当然のことで、セダンが売れるように努力するより、売れるカテゴリーに新型車を投入する方が確実に収益へと結びつく。つまり乗用車の基本であるセダンが衰退していくのは、自然な流れだったのである。
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