セダンと同様に絶滅危惧種と言われているのが、スポーツカーのカテゴリーだ。本来、スポーツカーとは運転を純粋に楽しむためのクルマで、決してハイパワーである必要はなく、乗員は2人で荷物を積むスペースも最小限に抑えられている。
マツダ・ロードスター(左)とスバルBRZ(先代)。ロードスターは2シーターでトランクも最小限。BRZはトヨタ86と兄弟車でリアに小さめのシートがあるが、走りへのこだわりからGTよりもスポーツカー寄りだそれにゆったりとしたボディサイズを与え、荷物や人を乗せやすくして、高速巡行性を高めたのがGTであるが、現在ではスポーツカーとGTの区別さえ曖昧になった。それはスポーティーな車種が少ないことと、多機能を求めるがゆえの進化によるものだ。
4ドアでもスポーツカー以上の性能を誇るクルマは存在するし、ライトウェイトで実用性も確保した5ドアハッチバックモデルは、完全にスポーツカーと同じ使い方ができる。これは現代のクルマならではの魅力とも言えるだろう。
現行モデルのホンダ・シビックタイプR。サーキットで鍛え上げられたシャーシにより、4ドアハッチバックながらスポーツカーを上回る速さを誇る。速いクルマ=スポーツカーではないが、クルマ好きの心をつかむ1台であることは確かだそんなモデルを走らせることに魅力を感じるドライバーは、今は極めて少ないだろうが、それでも国内だけで年間4万〜5万台は売れているのだから、まだまだ需要はある。しかしながら環境規制への対応など、これからスポーツモデルが生き延びていくのはセダン以上に難しい。
従来、スポーツカーユーザーが結婚して家族ができることでセダンやワゴンへと乗り換えていたものが、ミニバンやSUVへと移っているのだから、セダンはますます減少するばかりだ。救いは、やがて子どもが独立すれば、本来のクルマ好き(?)へと戻って、再び運転が楽しいスポーツモデルなどを所有するケースが多いことだ。だが、これも何もしなければ減少していくだけとなる。
このところトヨタやマツダはクルマづくりだけでなく、クルマ好きを喜ばせ、育てようという努力を続けている。他メーカーもブランドとドライバーを密接につなげる努力をしていく必要がある。
自動運転や電動化ばかりを追求するだけでは使い捨てのクルマ、その場限りのモビリティに成り下がってしまう可能性もあるのだ。クルマは便利なだけの乗り物ではない。セダンやクーペなど、所有し運転する楽しさを味わえるクルマを存続させなければ、自動車メーカーにも未来はない。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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