米Alphabet (アルファベット)傘下のGoogleは8月5日、米裁判所から検索サービスを独占しているとの判決を突きつけられた。しかし、実際には対話型AI「ChatGPT」を開発した米OpenAIから激しい追い上げを受けており、米司法省などによる反トラスト(独占禁止)訴訟よりも、OpenAIの方が大きな脅威になっている。
判決は規制当局にとって大きな勝利と受け止められている。しかし、投資家やアナリストによるとChatGPTなどAIツールの利用者が増加し、既にGoogleの優位性を侵食している。
10年間にわたりGoogleの検索サービス事業などに携わった同社の元技術者、アルビンド・ジェイン氏は「既にGoogleにとって今回の判決よりもAIの方が大きな問題だ。AIで検索商品の機能が根本的に変わった」と述べた。判決の影響が検索市場に及ぶのに時間がかかるのに対して、AIの衝撃は差し迫っているという。
Googleは長らく検索の代名詞となってきた。同社の検索サービスは全世界の市場シェアが約90%に上り、年間売上高は1750億ドル前後に達する。ソフトとハードの両面でなるべく自社製品を搭載する方針の米Appleでさえ、高額な手数料を払ってGoogle製品をデフォルトの検索エンジンとしている。
しかしAppleはOpenAIと提携し、今後の製品にChatGPTを搭載すると発表。今回の判決前からGoogleにとって手数料収入を得ながら検索エンジンを提供する恵まれた時代は終わりを迎えていた。
今回の判決で、AppleがGoogleとの契約打ち切りを迫られるとすれば、AppleはAI検索サービスへの移行を加速させるのではないかと専門家は見ている。
Microsoftの出資を受けているOpenAIは7月、インターネットからリアルタイムで情報を取得できる、AIを使った検索サービス「Search GPT(サーチGPT)」を発表した。
Googleの元上級幹部は「AIは司法省のGoogleに対する行動よりも速いペースで進展するだろう。Googleによる独占は終わる。つまりAIが検索サービスを支配するスピードはそれほど速いということだ」と述べた。
元Google幹部やアナリストによると、Googleは大規模言語モデルや検索エンジンなど、AI市場で先頭に立つために欠かせない資源を備えている。しかしその取り組みは、若者ユーザーを引き付けているOpenAIの攻勢に比べて緩慢だという。
Googleは生成AIブームに不意を突かれた。この技術の背後にある研究の源泉でありながら、2023年初頭にChatGPTが最も急成長したアプリになるまで消費者向け製品を市場に投入しなかった。
調査会社バルワールのレベッカ・ウェッテマン氏は「Googleにとって最も危険な存在はGoogle自身かもしれない。AIの導入において鍵となるのは信頼だが、Googleの技術者はOpenAIなどのペースに追いつこうと性急に製品を市場に投入して失敗し、信頼を損ねた」と問題点を指摘した。
Googleの検索結果をAIが要約する「AI Overviews(AIオーバービューズ)」機能は「接着剤を食べろ」と指示したり、オバマ元米大統領はイスラム教徒だと表示するなどミスを連発。Googleは2024年初めにこの機能を縮小した。
調査会社DAダビッドソンのアナリスト、ギル・ルリア氏は、規制当局の監視の目とAIの脅威は関連していると見る。「司法省がGoogleのビジネス慣行に対して行動を起こしたのは、足元で変動している市場でGoogleがさらに支配を拡大しないようにすることも狙いの一部だ」という。
米裁判所の判決はまだGoogleにとって大きな打撃になっていないかもしれないが、検索サービス市場は他の企業に開放されるはずだと、AI検索エンジンの米スタートアップ企業You.com(ユー・ドット・コム)のリチャード・ソーチャー氏は予想する。
一方でソーチャー氏は、Googleの市場支配を終わらせるのは「非常に難しい」とも指摘した。「これまで検索サービス市場におけるGoogleの支配に大きな打撃を与えた者は皆無だ。今回の動きをきっかけに消費者にとって選択肢が増えるかどうか見極める必要がある」と慎重だ。
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