日本の半導体が凋落してからおよそ30年、官民が2022年に立ち上げたラピダス(東京都千代田区)には業界の栄枯盛衰を目の当たりにした技術者が集結した。技術競争に取り残された日本が最先端半導体を量産できるか懐疑的な見方が少なくない中、彼らはムーアの法則に陰りが出てきた今こそ復興のラストチャンスと見て「敗者復活戦」に挑もうとしている。
今年7月にラピダスへ入社した鈴木優美さん(55歳)は1991年に大学を卒業してから30年以上、何度か会社を移りながら半導体業界で働いてきた。最初に勤めた日本の半導体製造装置メーカーから米系最大手の同業へ転職したところで日本の「半導体敗戦」を体験した。
半導体の製造プロセスがより先進的だった日本から米国本社へ技術をフィードバックするのが鈴木さんの主な業務だったが、米国との貿易摩擦が激しくなるにつれ日本の半導体業界は競争力を失い、鈴木さんがいた拠点は閉鎖された。「日本の半導体産業はこれで終わりなのか」と悲嘆したと鈴木さんは言う。
それまでウエハーに回路を形成する前工程の製造装置開発に携わってきたが、望む就職口は日本になく、半導体チップを切り出して封止する後工程の分野に転身することを決めた。鈴木さんは国内の大手画像半導体メーカーに転職し、そこで20年、後工程の開発に取り組んだ。
日本の半導体は凋落の一途を辿り、88年に5割超だった世界シェアは2019年に1割まで落ち込んだ。DRAMメモリー半導体はNECと日立製作所が事業統合してエルピーダメモリを作ったが、倒産して米マイクロンテクノロジーに吸収された。大規模集積回路(LSI)は日立と三菱電機、さらにNECも合流し、ルネサスエレクトロニクスとなって今に至る。
コンピュータの頭脳を担うロジック半導体の世界の主要プレーヤーは韓国サムスン電子や米インテル、エヌビディア、受託生産の台湾積体電路製造(TSMC)などに絞られ、日本勢で強いのはソニーグループの画像半導体、キオクシアホールディングスのフラッシュメモリーぐらいだ。キオクシアも株式の過半を米ファンドのベイン・キャピタル連合が握り、米ウエスタンデジタルとの統合観測が消えない。
そうした中で線幅2ナノの最先端半導体の量産を目指して昨年誕生したラピダスには、鈴木さんのような日本の浮き沈みを経験した技術者が集まった。60歳を超えた人も少なくなく、かつて日本が世界をけん引していた当時先頭に立って活躍した人もいるという。製造だけでなく、設計、部材などでキャリアを積んできた人など背景も幅広い。
半導体の学会にも参加する鈴木さんは、そこでラピダスの折井靖光専務執行役員から話を聞き、自身が身につけてきたノウハウを生かして日本の半導体再興に貢献できると考えた。ホームページから応募し、面接から3日で内定した。
「歴史を繰り返すわけにはいかない。これでだめだったら(日本は)半導体を諦めないといけないんじゃないかと思っている」と鈴木さんは話す。「残りの人生をかけてみようと思った」と語る。
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