生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。
日本IBM、サイバーエージェント、日立製作所、富士通、NEC、パナソニック コネクト
NTTデータ、情報通信研究機構(NICT)、三菱電機、村田製作所、JR西日本
※順不同、今後も追加予定
連載「生成AI 動き始めた企業たち」第15回は、住友化学を紹介する。同社は10月から、自社版のChatGPTとして「ChatSCC」(チャットエスシーシー)を開発し、全従業員約6500人を対象に運用を開始した。
事前検証では最大で50%以上の効率化を確認。今後は同社が強みとする研究開発、工業化、安全な運営に関するコア技術などを生成AIと連携し、新たなビジネス展開を目指すという。生成AIの活用は、同社のビジネスをどう飛躍させるのか。回答者は執行役員 IT推進部長の猪野善弘氏。
ビジネスへの影響 | 自社の強み | 競争優位性 | リスクと対処法 | ルール整備 | |
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パナソニック コネクト | 資料作成・企画立案など非定型業務でも活用可能 | 画像認識、生体データ分析・ロボティクスなどに強み | 早く広く生成AI活用を社内で促進 | 著作権などのコンプライアンスの課題と不適切な利用リスク | 生成AI利用に関する注意事項5項目を制定 |
NTTデータ | 新しいビジネスの登場も考えられる | 言語の生成AIでの技術的なノウハウに強み | 既存の強みを生かし、他社との差別化と強みを作っていく | リスクを詳細化し対処法を網羅する必要がある | 外部サービスの選定と生成指示について注意喚起した |
情報通信研究機構(NICT) | 人材不足など日本社会の重要課題で生成AI活用が進むと期待 | 大量の高品質な日本語学習データを蓄積済み | これまでの研究知見を民間企業に提供し日本の産業の底上げを狙う | 生成AIの副作用の抑制に柔軟に対応できる体制、技術の整備が重要 | 規定の手続きに則り研究者らが申請を行って承認を得て研究開発や利活用 |
三菱電機 | 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる | さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 | コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める | 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 | 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み |
村田製作所 | ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる | データの活用におけるAI利用に強み | 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に | 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある | 利用規則で制限を設けている |
JR西日本 | さらなる生産性向上に期待 | 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 | 人と生成AI両輪で事業を展開 | 個人データを機械学習に利用しないことが必須 | ルールブックを作成し対応者全員に研修 |
アサヒビール | 人がより創造的な活動に従事できる | 文量の多い技術資料を要約できる | 早期の試行で生成AIの適応範囲を理解 | 政府や業界の動向に注視が必要 | グループ会社で注意点などを共有 |
九州電力 | 業務の品質維持や高度化でより低廉で安定した電気を届けられる | これまで自社設備の保守・維持管理でAIを積極活用 | 自社にとっての最適ツール・活用法を検討 | 情報セキュリティ対策の徹底が必要 | 生成AI利用のガイドラインや解説動画を作成 |
住友生命保険 | 自身では思いつかないアイデアや示唆を得られる | 顧客から得たデータを価値に転換し還元する「顧客価値増大モデル」に強み | ウェルビーイングサービス領域でトップを目指す | 国の方針も踏まえ社内規定を見直しリスク抑制を図る | ガイドラインの作成・運用や勉強会による啓蒙活動も実施 |
住友化学 | 従来の暗黙知を共有知化し新しいビジネス価値を創出 | 独自生成AI「ChatSCC」を導入し最大50%以上の効率化を確認 | 独自のコア技術を活用したビジネス展開や競争力の確保を目指す | 社内データを情報源として回答生成する仕組みを設けハルシネーション低減を検討 | 独自のプロンプト集や指示文書作成テクニックの動画を社員に公開 |
各社の回答(要約) |
生成系AIの活用により、生産性が飛躍的に向上し、社員の創造的な業務に費やす時間が増えることで、当社のソリューション開発力やグローバルビジネスの強化につながると考えています。当社では、幅広いデータと知見に基づき、素材の創成から応用、生産プロセスの設計までを行っており、生成系AIの活用機会は無限大にあると期待しています。
また、社内データとの連携、特化型モデルの導入などを通じて、長年培ってきた当社のコア技術との連携活用も検討していきます。これにより、これまで暗黙知化していた知識・ノウハウを共有知とすることで、アウトプットの質・スピードの向上、さらには新しいビジネス価値の創出にもつなげていく予定です。
当社は、2022〜24年の中期経営計画において「デジタル革新による生産性の向上と事業強化」を戦略の一つとして掲げており、DX戦略1.0:生産性向上、DX戦略2.0:既存事業の競争力確保、DX戦略3.0:新たなビジネスモデルの実現に取り組んでいます。このたび、生成AIの一つであるChatGPTを検証した結果、当社のDX戦略の推進に大きく寄与できることが確認でき、当社版として「ChatSCC」を導入することになりました。約6500人を対象に運用を開始しています。
事前検証では、約200の典型的な業務パターンをテストし、最大で50%以上の効率化を確認しました。オフィス業務では、文書作成、校正、メール作成、要約、アイデア生成、翻訳、プログラムソースコード解読・生成などが含まれます。また、研究・製造業務では、技術報告、レポート作成支援、安全衛生/防安労災などのリスク抽出、データ分析業務などにおいても大幅な効果が期待されます。ChatSCC運用開始後2カ月時点では、特に文書要約、議論内容の整理、翻訳、プログラムソースコード解読・生成業務において大きな効果が出ています。
現状では、それぞれの部署が個別に知識・ノウハウを蓄積・活用していますが、生成AIを活用することにより、部署間で蓄積されたデータ・情報・ノウハウを共有化することが可能となります。これにより、既存製品の新たな価値提供や新規製品の開発サイクルの加速による顧客ニーズへの対応、生産活動の基盤強化による製品の安定供給など、多岐にわたる貢献が期待できます。
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