生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。
日本IBM、サイバーエージェント、日立製作所、富士通、NEC、パナソニック コネクト
NTTデータ、情報通信研究機構(NICT)、三菱電機、村田製作所、JR西日本
※順不同、今後も追加予定
連載「生成AI 動き始めた企業たち」第14回は、住友生命保険を紹介する。同社は7月から、本社・グループ会社の職員約1万人を対象に、ChatGPT技術を基に独自開発したチャットシステム「Sumisei AI Chat Assistant」(スミセイAIチャット・アシスタント)を導入した。
主力の保険商品のレベルアップに生かすほか、企画書などの文章の作成・要約・添削などでも活用。これまで作成に1週間を要していた企画書が、わずか1日で完成するなどの成果に結びついているという。
生成AIの活用は、同社にとってどのような意義があるのか。回答者はエグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長の岸和良氏と情報システム部 上席部長代理の中川邦昭氏。
ビジネスへの影響 | 自社の強み | 競争優位性 | リスクと対処法 | ルール整備 | |
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パナソニック コネクト | 資料作成・企画立案など非定型業務でも活用可能 | 画像認識、生体データ分析・ロボティクスなどに強み | 早く広く生成AI活用を社内で促進 | 著作権などのコンプライアンスの課題と不適切な利用リスク | 生成AI利用に関する注意事項5項目を制定 |
NTTデータ | 新しいビジネスの登場も考えられる | 言語の生成AIでの技術的なノウハウに強み | 既存の強みを生かし、他社との差別化と強みを作っていく | リスクを詳細化し対処法を網羅する必要がある | 外部サービスの選定と生成指示について注意喚起した |
情報通信研究機構(NICT) | 人材不足など日本社会の重要課題で生成AI活用が進むと期待 | 大量の高品質な日本語学習データを蓄積済み | これまでの研究知見を民間企業に提供し日本の産業の底上げを狙う | 生成AIの副作用の抑制に柔軟に対応できる体制、技術の整備が重要 | 規定の手続きに則り研究者らが申請を行って承認を得て研究開発や利活用 |
三菱電機 | 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる | さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 | コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める | 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 | 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み |
村田製作所 | ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる | データの活用におけるAI利用に強み | 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に | 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある | 利用規則で制限を設けている |
JR西日本 | さらなる生産性向上に期待 | 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 | 人と生成AI両輪で事業を展開 | 個人データを機械学習に利用しないことが必須 | ルールブックを作成し対応者全員に研修 |
アサヒビール | 人がより創造的な活動に従事できる | 文量の多い技術資料を要約できる | 早期の試行で生成AIの適応範囲を理解 | 政府や業界の動向に注視が必要 | グループ会社で注意点などを共有 |
九州電力 | 業務の品質維持や高度化でより低廉で安定した電気を届けられる | これまで自社設備の保守・維持管理でAIを積極活用 | 自社にとっての最適ツール・活用法を検討 | 情報セキュリティ対策の徹底が必要 | 生成AI利用のガイドラインや解説動画を作成 |
住友生命保険 | 自身では思いつかないアイデアや示唆を得られる | 顧客から得たデータを価値に転換し還元する「顧客価値増大モデル」に強み | ウェルビーイングサービス領域でトップを目指す | 国の方針も踏まえ社内規定を見直しリスク抑制を図る | ガイドラインの作成・運用や勉強会による啓蒙活動も実施 |
各社の回答(要約) |
当社は顧客のウェルビーイングの実現に向けて、従来の保険領域のサービスに加えて、非保険サービス領域の拡大(健康・資産・教育など)という新たなチャレンジに取り組んでいます。これは新たなサービス創出や、他社との協業による新たなビジネスモデルの構築などを伴うため、従来の常識や仕事の仕方では対応が難しいものです。
しかし、生成系AIを活用することで、職員が自身では思いつかないアイデアや示唆、アクションプランのヒントを得て、前に進められるようになると考えています。このように、職員一人一人が生成AIの活用を通じて必要な知識・スキルを身につけ、従来できなかったことができるようになることは、当社にとって大きな意義になります。
また、既存業務についても、数多くある業務を効率化するための文章要約・添削(英文含む)、FAQ、企画書などの作成に活用し、職員の業務生産性を高めています。これにより、全職員がより「人」ならではの「顧客・社会を意識した業務」や「新たな価値を創造する業務」へシフトすることを目標にしています。
当社では自社のAI分析環境を2020年に構築し、以降、さまざまな業務にAI機能を実装してきました。当社が提供する健康増進型保険、“住友生命「Vitality」”(以下Vitality)の顧客の健診データや運動活動データを分析し、23年3月には、顧客一人一人に合わせた「パーソナル健康増進サポート&パーソナル疾病リスクレポート」をリリースしました。
「健康のために生活習慣を改善しよう」と頭では分かっているものの、生活習慣はなかなか変えられないものです。そういった顧客に、この機能を通じて具体的な目標やペース、疾病リスクなどのアドバイスを行うことで、健康活動の習慣化を支援しています。これは、顧客から得たデータを価値に転換し、顧客に還元する「顧客価値増大モデル」であり、当社の強みであると考えています。
生成AIについては、23年7月から、Azure Open AIサービスを活用し、ChatGPT3.5と同等のAIチャット機能を本社職員約1万人に提供しています。
当社オリジナルの機能として、(1)初心者でも有効な回答を早く引き出すことができるプロンプトのひな型、(2)簡単な操作でひな型をプロンプトに投入するショートカット機能、(3)入力データ漏えいに配慮したセキュアな仕組み――の3つを提供しています。
今後は顧客向けの健康アドバイスや保険提案など、さまざまな業務への生成AIの活用も検討していく予定です。
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