生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。
日本IBM、サイバーエージェント、日立製作所、富士通、NEC、パナソニック コネクト
NTTデータ、情報通信研究機構(NICT)、三菱電機、村田製作所
※順不同、今後も追加予定
連載「生成AI 動き始めた企業たち」第11回は、JR西日本を取り上げる。同社は、利用者からの問い合わせに対応する「お客様センター」の業務を効率化するため、東京大学松尾研究室発のAIベンチャー、ELYZA(イライザ、東京都文京区)と共同で、5〜8月に生成AI活用の実証実験を行った。
同社のオペレーターはこれまで、月間約7万件に上る電話問い合わせとその対応記録を、サービス改善のため全てテキスト化してきた。こうした業務にかかる時間が、ELYZAが開発した言語生成AIによって最大54%削減したという。
9月からサービスを正式導入した同社。今後、生成AI活用にどのような道筋を描いているのか。回答者はJR西日本カスタマーリレーションズ取締役第1オペレーション事業部長の岩崎隆利氏。
ビジネスへの影響 | 自社の強み | 競争優位性 | リスクと対処法 | ルール整備 | |
---|---|---|---|---|---|
パナソニック コネクト | 資料作成・企画立案など非定型業務でも活用可能 | 画像認識、生体データ分析・ロボティクスなどに強み | 早く広く生成AI活用を社内で促進 | 著作権などのコンプライアンスの課題と不適切な利用リスク | 生成AI利用に関する注意事項5項目を制定 |
NTTデータ | 新しいビジネスの登場も考えられる | 言語の生成AIでの技術的なノウハウに強み | 既存の強みを生かし、他社との差別化と強みを作っていく | リスクを詳細化し対処法を網羅する必要がある | 外部サービスの選定と生成指示について注意喚起した |
情報通信研究機構(NICT) | 人材不足など日本社会の重要課題で生成AI活用が進むと期待 | 大量の高品質な日本語学習データを蓄積済み | これまでの研究知見を民間企業に提供し日本の産業の底上げを狙う | 生成AIの副作用の抑制に柔軟に対応できる体制、技術の整備が重要 | 規定の手続きに則り研究者らが申請を行って承認を得て研究開発や利活用 |
三菱電機 | 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる | さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 | コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める | 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 | 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み |
村田製作所 | ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる | データの活用におけるAI利用に強み | 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に | 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある | 利用規則で制限を設けている |
JR西日本 | さらなる生産性向上に期待 | 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 | 人と生成AI両輪で事業を展開 | 個人データを機械学習に利用しないことが必須 | ルールブックを作成し対応者全員に研修 |
各社の回答(要約) |
今回の実証実験では会話テキストの要約を行いましたが、ChatGPTの秀逸さを強く感じ、特にGPT4ではそれが顕著でした。実証実験を通じて、顧客から受け付けた問い合わせや意見に対応するためには、受け付けた内容をテキスト化して社内で情報共有することが欠かせません。こうした「要約業務」の時間短縮を実証実験で確認できました。また、要約業務の品質の均一化により、関係各所のレスポンスが早くなることも見込まれます。
今後は会話テキストの要約の次の工程となる「自動回答作成」「内容分類」などの業務への活用を模索しており、さらなる生産性向上に期待できると感じています。
「お客様センター」の運営を担うJR西日本カスタマーリレーションズでは、顧客目線で迅速、的確、親切、丁寧な対応の実現を通じた顧客体験の向上を目指しています。その中でコンタクトセンターでのさまざまな課題を生成AI技術の活用によってどのように解決するのか検討してきました。生成AI技術の強みを持つELYZAの知見を取り入れながら、顧客の困りごとをどのように解決するかを模索中です。
今回導入した生成AIによる通話要約は、実証実験期間において課題はほぼ解決したと考えており、本格導入へ至りました。実証実験の結果では、後処理時間(※)の長い業務領域(問い合わせ、意見・要望、介助申込)に対して生成AIを活用することにより、18〜54%の効率化につながりました。後処理時間の短縮効果によって、より多くの顧客応対が可能となることやバックヤード業務の効率化にもつながると考えています。
※ 後処理時間:要約作成以外の事後処理時間も含む、オペレーターにかかる応対後処理時間
サービスの外販については、当社と同様にコンタクトセンターの運営業務を行っている他社にも有益であると確信しており、ELYZAと協業して取り組んでいきたいと考えています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング