開発のきっかけは、兵庫県たつの市の小学生の陳情だった。2022年7月、ある小学生が炎天下での登下校環境の改善を求め、市長宛てに匿名で手紙を投函(とうかん)。その内容は、単なる要望にとどまらなかった。
教科書入りランドセルが約5キロあり、他の荷物を持つ機会も多いことから、帰宅時の疲労を訴えたほか、家族と協力して通学路の距離と所要時間を測定。そのデータを基に、建設作業員向けの冷却ウェアや日よけ効果の高い帽子の全児童への配布を提案した。論理的かつ具体的な提案は、関係者を驚かせたという。
この陳情を受け、たつの市はセイバンに相談。香川さんは「既存の『背当てパッド』(1980円)とは異なるアプローチを模索していた時期と重なり、陳情の声を受けて開発を加速させた」と説明する。「背当てパッド」は、セイバンが販売していた製品で、ランドセルと背中の間に挟み、夏場の蒸れを軽減するためのものだ。しかし、近年の猛暑に対して、同社は単なる蒸れ対策では不十分だと考えていた。
「熱中症リスクが高まる中、より積極的な冷却効果が求められた」と香川さんは語る。そこで、従来の通気性重視から、直接的な冷却効果を持つ製品の開発へとアプローチを変更した。
当初は、首に巻く冷感グッズや、冷感タオルも検討するなど試行錯誤した。結果的に、最も効果的な冷却方法として保冷剤を採用するに至った。
開発過程での最大の課題は、冷却効果と安全性のバランスだったという。香川さんは「どれだけ冷たく感じてもらえるかが大きなテーマだったと同時に、凍傷などのリスクも考慮する必要があった」と語る。
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