PayPayがデジタル給与払いに対応する背景には、「PayPay経済圏」の拡大という大きな戦略が見える。まず、給与をPayPayで受け取ることで、ユーザーの日常的な利用を促進し、アクティブユーザー数を増やすことが期待できる。さらに、給与がPayPayに直接入ることで、PayPay経由の取引量が増加し、手数料収入の増加にもつながるだろう。
柳瀬氏が「PayPay証券やPayPay保険の支払いに使いたい」と述べているように、給与受取をきっかけに、投資や保険などの金融サービスの利用促進も狙う。「給料日に朝起きたら自動的にPayPayにお金が入っている」(柳瀬氏)という世界観を実現することで、PayPayはユーザーの日常生活に不可欠な存在となることを目指している。
一方で、企業やそこで働く正社員などの従業員には、直接的なメリットは少ない。銀行預金は日々の買い物だけでなく、公共料金やクレジットカードなどの引き落としや決済にも必要だし、銀行口座からのPayPay残高へのチャージもワンタップで可能だ。企業側にとっても、デジタル給与払いに対応するメリットは小さく、従業員満足度の向上にとどまる。
大きなメリットが考えられる唯一のケースは、国内で銀行口座を開くのが難しい外国人労働者や、多様な働き方をするアルバイトやスポットワークの従事者である。これまでは月末に労働時間を集計し、翌月末に振り込むなどの仕組みが一般的だった。即時払いや週払いなどを行うハードルとなっていたのが、銀行振込の手続きの煩雑さとコストだ。銀行振込の代わりにデジタル給与払いを利用すれば、柔軟な支払い方法が可能になる。
「即日払いや週払いを導入すると採用が進むという声が多い。企業にとって重要な採用の武器になる」と柳瀬氏は話す。
実際、スポットワーク事業「メルカリ ハロ」を運営するメルカリでは、デジタル給与払いの申請を行っており、スポットワークで働いて得た給料が直接メルペイの残高に付与されることを目指している。
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