中小企業には「DXなんて無理」って本当？ 現状を変える「BPaaS」の可能性（2/2 ページ）

[斎藤健二，ITmedia]

BPaaSがもたらす変化

　ではBPaaSの登場は、企業にどんな影響をもたらすのだろうか。

　最も顕著な変化は、DX推進へのハードルが下がることだ。kubellパートナーの岡田社長は「中小企業でSaaSを使える人材を育てるのは難度が高い」と指摘する。BPaaSは、この人材不足の課題に対する解決策となり得る。実際、グランサーズの筧CEOは「紙で行っていたお客さんから、全部デジタル化したいという声が出る」と、顧客企業の変化を報告している。

　次に、経営資源の最適配分を促す効果がある。マネーフォワードの渡辺本部長は「企業が今欲しい人材は、オペレーションを回せる人材ではなく、会社をより効率化していく人材」だと分析する。BPaaSにより定型業務をアウトソースすることで、企業は戦略的な業務に人材を集中させることができる。

　働き方の多様化も進んでいる。グランサーズが活用するスポットワーク市場は、副業や多様な働き方を求める人々に新たな機会を提供している。筧CEOは「副業で働きたいという人が想像以上に多かった」と語る。

BPaaS事業をスケールするには、オペレーションを行う人材が重要になる。グランサーズではスポットワーク市場を活用することで、デジタル経理人材の育成を進める（グランサーズ資料より）

　従来のBPOとの違いも明確になってきた。BPOは切り出して受託した業務そのものを改善していくことは目的に入っていない。対してBPaaSは「業務プロセスの改善とDX推進を同時に実現することを目指している」（kubellパートナーの岡田社長）。

　マネーフォワードの渡辺本部長も「顧客の改善要望を受け取って、SaaS自体の改善にもつなげている」と語る。自社のニーズを解決する機能が、プロダクトに追加される可能性もあるということだ。

　技術面では、AIの活用が今後のカギを握る。マネーフォワードは「AIによって労働集約から脱する」ことを目指している。kubellパートナーも「生成AIはBPaaSに活用できる」と可能性を示唆している。

　これらの変革は、中小企業の競争力強化にもつながる可能性がある。グランサーズの筧CEOは、大企業は自力でもDXはなんとかなるが、中小企業こそBPaaSのメリットが大きいと話す。

日本の地方中小企業が直面する2つの大きな課題に対する解決策

　BPaaSは、日本の地方中小企業が直面する2つの大きな課題に対する解決策となるかもしれない。深刻化する人手不足と、遅れがちなDXの推進だ。

　人手不足は、特に地方の中小企業にとって深刻な課題だ。DXによって効率化を図りたいというニーズはあるが、それを行えるDX人材が獲得できないというジレンマがあった。BPaaSは、専門知識を持つ人材とテクノロジーを外部から効率的に調達することで、この問題に一石を投じる可能性がある。同時に、DX推進においても、BPaaSは中小企業に新たな選択肢を提供できる。

　さらに、BPaaSは企業の人材活用の最適化も促進する。定型業務をアウトソースすることで、企業は戦略的な業務により多くの人材を振り分けられる。これは、中小企業の競争力強化にもつながる可能性がある。

　ただし、BPaaSの普及はまだ始まったばかりだ。各社の取り組みも試行錯誤の段階にある。請け負う業務の型化が進まなければ、労働集約型のビジネスとなり真の意味で効率化は進まないかもしれない。今後、AIの活用などによってサービスの質が向上しコストが下がることが、BPaaSが真の意味で業務委託から脱却するためには必要だろう。

　BPaaSは、地方中小企業のDX推進の切り札となるかどうか。人手不足とDX推進の遅れという2つの課題に同時にアプローチできる新しいサービスとして、その動向が注目される。