変革の財務経理

中小企業には「DXなんて無理」って本当? 現状を変える「BPaaS」の可能性(1/2 ページ)

» 2024年08月28日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「経理部門がブラウザの向こうにいる」── これは、もはや遠い未来の話ではない。「BPaaS」という新たな概念が、中小企業のDXに変革をもたらすかもしれない。

 人手不足に悩む地方の中小企業。DX推進の必要性は理解しているものの、専門人材の確保が難しく、高度なITシステムの導入にも二の足を踏む。こうした企業にとって、BPaaSは救世主となり得るのか。

 BPaaSを提供するkubellパートナー、グランサーズ、マネーフォワードの3社に聞くと、BPaaSとは一体何で、どんな価値を提供するものなのかが見えてきた。

「人手不足で、DXなんてとても……」 中小企業を“BPaaS”はどう変えるか

 kubellパートナーの岡田亮一社長は、BPaaSの必要性をこう語る。「中小企業の場合、SaaSを効率的に使いこなせる人材を採用し、抱えていくのは非常に難易度が高い」。この課題に対し、BPaaSは人材とテクノロジーを組み合わせたソリューションを提供する

 一方、グランサーズの筧智家至CEOは、BPaaSを「まるごとお願いできる、人手+BPO」と定義する。従来のBPOとの違いを強調し、「人が動いてまるごと業務をお願いできるもの」だと説明する。

 マネーフォワードの渡辺恵伍氏(ビジネスカンパニー クラウド経費本部 兼 カスタマーリレーション本部 本部長)は、BPaaSを「BPOとSaaSの掛け合わせでDXを推進するもの」と捉える。「クラウドサービスで解決できる領域が、システムだけではなく、そのシステムを使いこなす一部の手作業のところまでセットで提供される」というビジョンを示す。

(提供:ゲッティイメージズ)

 そもそもBPaaS(Business Process as a Service)とは何か。一般に、クラウド上でビジネスプロセス全体を提供するサービスモデルを指す。

 これは、SaaS(Software as a Service)の進化形ともいえる。SaaSがソフトウェアをクラウドで提供するのに対し、BPaaSはソフトウェアに加え、それを運用する人的リソースやプロセスまでをパッケージ化する。つまり、「システム+人+業務プロセス」をまとめて提供するのだ。

 この新しいモデルは、特に中小企業のDX推進に期待されている。しかし、その具体的な定義は、提供する企業によってさまざまだ。

 kubellパートナーは、中小企業向けビジネスチャットでNo.1シェアを持つChatworkを運営するkubellの子会社だ。同社のBPaaS事業は、Chatworkの既存顧客基盤を活用する形でスタートした。この戦略により、新規顧客獲得のためのマーケティングコストを抑えつつ、効率的に顧客にリーチできる強みがある。

 ターゲットは主に中小企業や地方企業。DXを進めたいが人材不足に悩む企業に、SaaSの効率性とベストプラクティスを人材を介して提供する。「中小企業でSaaSを使える人材を育てるのは何度が高い」という課題に対し、DX人材をセットにした解決策を提案している。

 岡田亮一社長は「SaaSは手段に過ぎない」と語る。同社のBPaaSは「DX推進のための人材」を重視する。技術だけでなく、それを使いこなす人の重要性を強調している。

ソフトウェアをサービスとして提供するSaaSの次のステップとして、業務オペレーションもクラウド上のサービスとして提供するのがBPaaSだ(kubellパートナーの資料より)

 グランサーズは「業務プロセス全体の代替」を目指す。筧智家至CEOは「企業の業務をまるごとお願いできるのがBPaaS」と説明する。SaaSとBPOを組み合わせ、バックオフィス業務全体を請け負う形だ。

 グランサーズの特徴は、実働人材をスポットワーク市場から調達している点だ。筧CEOは「副業で働きたいという人が想像以上に多かった」と語る。タイミーの上場に見られるように、スポットワーク市場は注目を集めている。グランサーズのサービスは、バックオフィス業務をアウトソースしたい企業と、スポットワークで働きたい人材をマッチングする意味合いが強い。

業務プロセスごと依頼することで、自力でSaaSを活用できない企業でもDXが可能になる(kubellパートナーの資料より)

 この仕組みにより、グランサーズはサービスを柔軟にスケールできる強みを持つ。筧CEOは「スケーラビリティの成長を考えていった時に、正社員だけの採用で伸ばすのは限界がきています」と説明する。多様な人材を効果的に活用し、幅広い顧客ニーズに応えられる体制を構築している。

 マネーフォワードのアプローチは、自社SaaSの付加価値としてBPOを位置付け、それらをセットでBPaaSとして提供している点が特徴だ。渡辺本部長は「BPOとSaaSの掛け合わせでDXを推進する」と説明する。

SaaSベンダーであるマネーフォワードは、業務オペレーションを受託するBPOを組み合わせることで、BPaaSを提供する(マネーフォワード資料より)

 同社の強みは、自社開発のクラウドサービスとの緊密な連携にある。「われわれ以上にSaaSのプロダクトを理解した上で利用を提供する会社はない」と渡辺本部長。この強みを生かし、主に経費精算と債務支払いの領域に特化したサービスを展開している。

 ターゲットは管理部門のミッション拡大を目指す企業だ。「経理の現場からより事業に貢献する領域にリソースをシフトしたい企業」に訴求する。規模や地域は限定せず、コストメリットを重視する企業をターゲットとしている。

 3社とも、テクノロジーと人的サポートを組み合わせたBPaaSを提供している点で共通しているが、そのアプローチは大きく異なる。kubellパートナーズは既存顧客基盤の活用、グランサーズはスポットワーク人材の活用、マネーフォワードは自社SaaSとの連携を、それぞれ特徴としている。

 目的や重点の置き方も三者三様だ。kubellパートナーは人材によるDX推進、グランサーズは業務の包括的な代行、マネーフォワードはクラウドサービスの活用支援。それぞれの強みを生かしたアプローチだといえる。

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