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クレカは「Suica王国」の牙城を崩せるか? 交通系タッチ決済の現在地決済革命は第二幕(2/2 ページ)

» 2024年08月29日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]
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Visaの狙い

 公共交通機関へのタッチ決済導入は、Visaにとっても単なる新規市場の開拓以上の意味を持つ。Visaワールドワイドジャパンのシータン・キトニー社長は、「オープンループシステムが大きく成長している」と評価し、「これはパートナーの努力と、タッチ決済の広がりの結果だ」と語る。

Visaワールドワイドジャパンのシータン・キトニー社長

 「オープンループシステム」とは、Suicaなどの交通系ICカードのような閉じたシステムではなく、汎用的な決済手段を用いるシステムを指す。つまり、日常的に使用するクレジットカードをそのまま交通機関で利用できる仕組みだ。

 Visaの藤森貴之氏は、交通系タッチ決済導入の効果について興味深いデータを示した。「タッチ決済導入から2年で、対面取引のうち交通機関取引が過半を超えた」というのだ。これは、交通系タッチ決済の習慣性の強さを示している。

 さらに交通系および非交通系のタッチ決済が「お互いを後押しする好循環を作り出している」と指摘する。交通機関でのタッチ決済利用が増えることで、他の場面でのタッチ決済利用も増加し、それがまた交通機関での利用を促すという好循環が生まれているのだ。

 この相乗効果は、Visaにとって重要な意味を持つ。日常的な決済シーンに交通機関が加わることで、クレジットカードの利用頻度が飛躍的に高まる可能性があるからだ。実際、藤森氏は「タッチ決済導入で10%、乗車数が伸びたというデータもある」と述べており、これは単に決済手段が変わっただけでなく、公共交通機関の利用自体を促進する効果があることを示している。

「タッチ決済導入から2年で、対面取引のうち交通機関取引が過半を超えた」という

新たな公共交通の姿

 長らく日本の公共交通の顔であったSuicaの牙城が、今、クレジットカードのタッチ決済によって揺らいでいる。しかし、これは単なる決済手段の交代劇ではない。三井住友カードの「stera transit」に代表される新たなシステムは、柔軟な料金設定やデータ活用、MaaSプラットフォームの構築など、公共交通の経営革新や地域活性化のツールとなる可能性を秘めている。

 しかし、高齢者や子どもなど非カード保有者への対応、複数事業者連携による乗り継ぎへの対応、既存ICカードとの共存など、課題も残されている。日本の公共交通は今、大きな転換点を迎えているのだ。

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