株価低迷のメルカリが打った“大胆な一手”とは? その裏にある経営意図古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年08月30日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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買い入れと消却の裏にある経営意図

 転換社債の買い入れとは、企業が市場に流通している自社の転換社債を買い戻すことを指す。株式に転換されることによって株式数が増加し、既存株主の持ち分が希薄化するリスクを回避するためにも、買い入れを選択することがある。

 また、企業は予想以上に早く安定したキャッシュフローを確保できた場合、負債を早期に返済し財務基盤を強化するために転換社債を買い入れることもある。

 メルカリの業績を振り返ると、転換社債型新株予約権付社債が発行された2022年6月期には37億円の赤字を出していたが、翌2023年6月期には170億円の営業利益を出している。

 また2024年6月期についても、160億円程度の営業利益が出る見込みだ。メルカリとしては直近2期で生まれた営業キャッシュフロー黒字を原資に、債務を整理・圧縮したいという意図がある可能性が高い

 消却とは、買い戻した転換社債を市場から引き揚げ、その存在を無効化することを意味する。これにより、潜在的な株式増加リスクを取り除き、株価の下支えにもつながる。

 メルカリはこの度の買い入れにより金融収益として11億円を計上する見込みだ。同社の転換社債が新株予約権に転換される可能性が低くなったことから、同社は投資家から額面よりも安く同社の社債を買い戻すことができた。

 裏を返せば、買い入れに応じる投資家にとって元本割れとなったわけだが、投資家としても悪い話ではない。同社の社債はゼロクーポン債で利回りがつかないため、満期まで保有し続けてしまうと、他の米国債などの低リスクでありながら数%の利回りがつく債券への乗り換え機会を逸失してしまうからだ。

 社債は買ってくれる人がいなければ売れない。そんな時に、メルカリの社債をメルカリが買ってくれるのであれば、損切りしても他の利回りが高い債券などに乗り換える方が合理的と考えることには、一定の妥当性があるだろう。

政策金利の利上げと転換社債の関連はナシ

 日銀が金融緩和政策を徐々に見直し、金利上昇の可能性が高まる中、企業にとって借入コストの上昇が現実的な懸念となっている。

 メルカリは、金利が上昇する前に転換社債を買い入れて消却することで、将来的な金利負担を軽減するとともに、発行時から円安になっていることで本社債の返済コスト増加リスクを抑えようとしていると見る動きもある。しかし、これは誤りだ。

 まず、ユーロ円のレートは2021年の120円台から足元では160円まで円安が進んでいる。そう考えると、一見「ユーロ円建ての社債」という表記からはメルカリ側の返済コストが増加しているようにも見えるかもしれない。しかし、債券市場でいう「ユーロ円」とは、欧州の基軸通貨であるユーロを指しているのではなく、債券が取引される市場を指すにとどまる。

 つまり、メルカリのユーロ円建て社債とは、外国(ユーロ市場)で円建てで発行された債券であり、日本の投資家にとって為替リスクはない。発行時から円安が進行しても円建ての返済コストが高まるわけではないのだ

 そして、メルカリの本社債はゼロクーポン債であることから、市中金利の高騰にかかわらず利息負担はない。従って日銀の政策とメルカリの本買い入れには直接的な関連はないと言ってよいだろう。

 メルカリの転換社債買い入れと消却は、同社の財務安定化を図るための重要な戦略といえる。

 競争が激化する国内外の市場環境下で、メルカリが持続的な成長を遂げるためには、強固な財務基盤の構築が欠かせない。転換社債の買い入れと消却という大胆な一手は、その一環として、今後の同社の成長を支える大きな要因となる可能性があり引き続き同社の動向に注目していきたい。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


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