さまざまな企業で導入が進むDXツール。近年では生成AIも取り入れられ、新規導入を焦る経営者もいることだろう。DXの必要性は認識しつつも、実際にどんなツールをどういった目的で導入すればよいかが課題となっている企業も少なくない。
実際に仕事に関する悩みに向き合うWebメディア「リバティーワークス」の調査でも、約65%の企業がDXの重要性を感じながら実践できていない現状があるという 。
企業はどのようにDXツールの導入を進めれば良いのか。『DX沼からの脱出大作戦』(ダイヤモンド社)の著者でもあり、各ビジネス媒体でDXの記事も手掛けるRISU Japanの今木智隆社長に聞くと、意外な答えが返ってきた。
今木智隆(いまき・ともたか)RISU Japan社長兼Media Theater代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザー行動調査・デジタルマーケティング領域専門特化型コンサルティングファームのビービット入社。金融・消費財・小売り流通領域クライアントなどにコンサルティングサービスを提供し、2012年から同社国内コンサルティングサービス統括責任者に就任。2014年、RISU Japanを設立。タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、のべ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。2008年にはMedia Theaterを設立し、大手金融機関から消費財・インターネット起業まで、幅広い業界へのデジタルマーケティング支援を行っている。国内はもちろん、シリコンバレーでもハイレベル層から、算数やAIの基礎知識を学びたいと、アフタースクールなどからのオファーがある――これまでITコンサルとして数々の企業の問題を解決してきた今木さんは、日本企業のDXの課題をどのように見ているのでしょうか。
さまざまな課題があると思いますが、例えば小売業界ですとPOSデータをいかに活用していくかが課題でした。近年はこれに関するDXツールが大量に出回っています。実に多くのツールが出回ってきているものの、これらを使いこなせているのは、ごく一握りの人たちだけだと思います。
某飲料メーカーの例を見てみましょう。その企業は自社のお茶製品と一緒に買われている商品が何かを、何千万円かけてデータサイエンティストに分析させたそうです。そこで分かったのが「一緒に買われていたのはコンビニのおにぎりでした」という答えだったんですね。これは素人の目から見ても「そりゃそうだよね」となると思います(笑)。ここからさらに詳しく見ていこうとなっても「ツナマヨ」などの売れ筋商品が出てくるだけでした。じゃあ「おにぎりの次に売れている商品は何か」と見ていくと、今度はサンドイッチが出てきたみたいな、笑い話のような“笑えない”話がありました。
――いかに分析手法が高度になったとしても、マーティング担当者が何を分析するかという問題が残るわけですね。
いくらITが進化しているといっても、お金をかけたから新しいことが分かるわけではありません。ITは進歩している一方、人は昔に比べて必ずしも進歩しているわけではないのです。つまりITのコストばかりがどんどん上がっていく時代なので、使う側に課題が生じているといえます。
――ITやDXツールの使い手側は、どのように向き合っていくべきなのでしょうか。
ツールに応じて人が変わっても仕方がないと思います。例えば今BI(ビジネスインテリジェンス)ツールも人気ですが、これも大半の人が、それまでExcel(エクセル)でできていたことをクラウド上などでやっているだけに過ぎません。もちろん、データの整形やAPIとの連携面でエクセルより優れている点もあります。中には高度に使いこなせている人がいることも確かです。ただ大半の企業担当者が、これらのツールをエクセル以上に使いこなせているかは疑問です。
そしてこれはITやDXツールに限らず一般論としての話ですが、営業する際は、リテラシーの高くない人を狙いにいった方が効率的にものを売れるといった側面があります。自社の製品をいかに上手に使ってくれるかどうかではなく、いかに高いお金を出して買ってくれるかが企業にとって大事な面もあるからです。特にスタートアップにおいては、早期に高い売り上げを上げて、いち早く上場することが一つのゴールですから、こうした思惑に対しても企業の経営者や担当者はきちんと向き合う必要があります。
――企業はどのようにDXを進めるべきなのでしょうか。
例えば「紙をPDF化しましょう」というのは分かりやすいDXだと思います。紙を使わなくなった分だけコストが減る単純な話だからです。こういったフィジカルからデジタルになるものはうまくいくと思います。音楽業界を見てもレコードがCDになったことによって流通量が爆発的に増えた過去の例からも明らかですよね。
問題は、デジタルから別のデジタルになる場合です。企業の中には、あるツールを導入して5年の償却期間が終わったから、機械的に新しいツールを導入しているところもあります。「最新のツールを取り入れておけば、とりあえずうまくいくだろう」という考えで進めているのかもしれませんが、現場の担当者や顧客にとって、それが利益になっているかというと疑問です。
5年かけてやっと従業員や顧客が習熟してきた頃には、また新しいツールが入ってきて……の繰り返しになってしまい、いつまで経っても生産性が向上しないなんていう状況はザラにあります。ベンダーも自社製品をとにかく売りたいので、こういった事態に陥る企業が珍しくありません。
――「金儲(もう)けをしたい、売り上げを伸ばしたいベンダーの人たち」に対するリテラシーを、いかに上げるかが課題と言えそうです。
例えば広告の世界だと、クロスメディアやトリクルメディアと言ってみたり、バーティカルと言ってみたりというように、これまでにもあったものを別の言葉に言い換えているところには注意したほうがいいですね。ベンダーは、しょせんベンダーの都合でしか動いていない部分が大きいと思います。
例えばベンダーの世界で頂点にいるのが米Microsoft(マイクロソフト)だと思うのですが、ウィンドウズに一緒に入っているソフトが全て役に立つかと言われればそうではありません。アップデートを押し付けられることによって使い手側が混乱することも珍しくありません。これはマイクロソフトに限らず、業界全体に恐らくそういう側面があります。使いようによっては役に立つのですが、ベンダーの推奨する利用方法が、いつも自分たちの企業にとって役に立つものであるとは限りません。
これは個人的な意見なのですが、ほとんどの人がやっている分析は、エクセルとGoogleの無料サービスでできることしかやっていないのではないでしょうか。例えば数万件程度のデータであれば、高いBIツールを使わずとも、エクセルで管理できるのです。
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