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そのDXツール、本当にいります? “情弱” 経営者にならないためのコツとは(2/3 ページ)

» 2024年09月06日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

B2BとB2C DXによる変化余地が大きいのはどっち?

――ワークマンのように「エクセル経営」と称して、従業員にエクセルの活用を徹底させている企業もあります。

 ベーシックなものを、きちんと徹底することが大事だと思います。例えばリクルートが何で強いかというと、営業を徹底しているからです。経営者にとって、面白い会社にしたい、強い会社にしたいなど、企業によって目指したいいろいろな方向性があると思います。しかし、別にITに強くなろうとしていない会社がむやみにITに投資をしても、あまり利益にならないのではないでしょうか。それよりは、自社の基礎的なところに投資したほうがよっぽど効率的だと思います。

――デジタルからデジタルの移行にさまざまな罠(わな)があることは分かりました。一方で、人手不足の問題をDXで穴埋めする動きはどうでしょうか。

 B2Cではあまりうまくいっているようには思わないですね。例えば飲食点で最近見かける配膳ロボットも、よく渋滞している印象です。スーパーの無人レジもこうしたDXの取り組みだとは思いますが、結局無人レジの使い方が分からない人への説明員を常設しています。僕からみると、説明員がレジ打ちをしたほうが早いのではないかと思います。全体では無人レジでレジの設置台数が増えた分だけ多少は効率化できているのかもしれませんが、その分伸びた売り上げが、無人レジの導入コストに見合っているのかは疑問ですね。

――Amazonの物流倉庫のように、B2Bではうまくいっている事例もあると思います。

 B2Bの現場でも、倉庫のように動線を明確にルール化できるところはうまくいくでしょう。ところがB2Cではそんな簡単にはいかなくて、例えば薬局の棚を無人化しようとしてもできないと思います。どの薬がいいのか聞いてくる人は絶えずいますし、説明する人も必要になります。

 B2Cの分野では、あのGoogleでも無人化まではできていません。例えばGoogleでは不適切なコンテンツのフィルターがありますが、あれは最終的には人による目視でフィルターを掛けているそうなのです。ある程度の部分はAIなどで機械化されていますが、最後は人がやっています。それこそGoogle検索は四半世紀以上続いている本業ですが、それでも完全に機械化ができていないところを見ると、B2CのDXの難しさがうかがえます。

 B2CでDXがうまくいったケースには、Suicaの例があると思います。ただ、あれもB2Bの倉庫の例のように、多くの利用者が同じ動きしかしないからこそうまくいっているところが大きいと思います。モノやヒトの動きが制御できる分野ではDXはうまくいきやすいと思うのですが、制御できないB2Cでは難しい側面があると思います。それだったら従業員の基礎を徹底して教育したほうが、投資効率がいいのではないでしょうか。

 ワークマンのように、エクセルだけを徹底して使い倒す方針は本質を捉えているように思います。例えば、Google検索の機能を全て使えている人って、100人に1人ぐらいしか僕はいないと思っています。Google検索って、拡張子を指定した検索や完全一致検索、部分検索も実はできるのですが、そこまで使いこなせている人は希少です。でもそれだけで情報収集の精度は5倍も10倍も変わってきます。

 より日常の業務でも、コピーの「Ctrl+C」や貼り付けの「Ctrl+V」などのショートカットキーをどれほどの人が使いこなせているのか疑問です。下手なDXツールを導入するのではなく、こうしたPCの使い方の基礎的な教育をしたほうが効率的なのです。

――DXの世界でも、やはり基礎が大事ということですね。

 そうなんですが、それはベンダーや従業員の側からしても面白くないわけですよ。クロス統計一つをとっても、本来であれば正規分布が成立する条件などを勉強すべきなのですが、従業員にとっては面白くありません。それだったら、高いツールに数字を入力するだけで華やかに結果が出てきたほうが楽しい気持ちは理解できます。

B2Bの倉庫では、人が同じ動きしかしないからこそDXがうまくいっているという(写真提供:ゲッティイメージズ)

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