DIC川村記念美術館は本当に「バブル時代の負の遺産」なのか? 「物言う株主」の是非(3/3 ページ)

» 2024年09月12日 12時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

「バブル期の負の遺産」なのか?

 DIC川村記念美術館はバブル全盛期の1990年に開館した。そのためこの美術館が「バブル期における負の遺産」ではないかと見る向きもある。しかし経済的に非効率であったとしても、その存在自体に意義があり、社会的価値を提供し続けていたかどうかが重要ではないか。

 美術館を維持するコストが利益を上回る時、合理的な経営判断として「損切り」が行われ、閉鎖の判断を下すこともあり得る。それは企業の財務健全性を高めるためには必要な措置かもしれない。

 しかし、DIC川村記念美術館の収蔵作品には、レンブラント・ファン・レインの『広つば帽を被った男』、ピエール・オーギュスト・ルノワールの『水浴する女』、そしてクロード・モネの『睡蓮』といった、歴史的にも非常に重要で評価の高い作品も多く含まれている。なにより、マーク・ロスコの絵画の専用展示室、「ロスコ・ルーム」を忘れてはならない。絵と建築が一体化した「場」であるロスコ・ルームは、他の美術館にも類をみない稀有(けう)な空間だ。移転によってこの空間が維持される保証はない。

 これらの作品および空間は、文化的な価値はもちろんのこと、資産としての価値も極めて高いといえそうだ。このような貴重なコレクションを所有し公開することは、企業が社会的責任を果たす上でも、資産価値を貯蔵する手段としても重要な意味を持つ。

 DIC川村記念美術館の閉館に際し、千葉県知事をはじめとする政府関係者からもコメントが寄せられている点も見逃せない。千葉県の熊谷俊人知事や佐倉市の西田三十五市長は、閉館が地域社会に与える影響について懸念を示し、その文化的価値を再評価する必要性を強調している。

 DIC川村記念美術館の休館は、企業経営における「物言う株主」の影響を如実に示す事例である。アクティビスト投資家は企業に対してより高い収益性と株主価値の向上を求める一方で、長期的な文化的貢献や社会的責任に対する視点が欠けることがある。経営層には、こうした投資家の要求と企業のビジョンとのバランスを取ることが問われているといえる。

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR