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“リースの資産計上”義務化で「企業の負債が大幅増加」──他にどんな影響が?古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年09月13日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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リース取引との付き合い方は変わる?

 リースを活用した資金調達スキームの一つに、セールアンドリースバック取引というものがある。これは、企業が自社の資産を売却し、その後に同じ資産をリースする取引である。この手法は、資金調達手段として長く利用されてきたが、今回のリース会計基準の変更により、その有効性が低下する可能性については気を付けておきたい。

 セールアンドリースバック取引は一般にオペレーティングリースとして扱われるケースが大多数であり、これまではオフバランスシート取引として企業の財務諸表には反映されなかった。しかし、新基準ではこの取引も貸借対照表に計上されるため、資産を売却してもリース分の負債が残ることになる。

 セールアンドリースバック取引は、一般に自社の資産を売ってから借りて利用するものであるため、長期のリース取引になりやすい。そうなると、負債計上によって金融機関からの融資の際に、その分だけ融資額が差し引かれたり、M&Aの場面で若干不利な値付けをされたりするリスクはある。

 ただし、眠っている自社資産を流動化し、成長に向けて新たな投資を優先させたい企業や、リースバックする資産の利用が比較的短期で終了するケースの場合は、そのようなリスクと比較して資金調達メリットの方が高いといえる。依然としてセールアンドリースバックが資金調達手段として有効な場合もあるため、リース取引との付き合い方は個々のケースごとに判断したい。

資産の購入も視野に入れた戦略を

 今回のリース会計基準の変更により、企業は一般的なリース取引についても戦略を再評価する必要がある。これまでは、オペレーティングリースを利用することで、負債を貸借対照表に計上せずに資産を運用することができた。しかし、新しい基準ではこれが難しくなるため、企業はリースを利用するか、資産の購入も視野に入れて慎重に検討する必要がありそうだ。

 また、リース契約の内容や期間についても見直したい。短期リースを選択することで、貸借対照表への影響を最小限に抑えることが可能であり、企業は資産運用の柔軟性を確保しながら財務負担を軽減するための工夫が求められる。

 2027年度からのリース会計基準の変更は、日本企業にとって大きな転換点となる。リース取引が全て貸借対照表に計上されることで、財務諸表に与える影響は避けられないが、これが企業経営の実態に与える影響は限定的であり、株価への影響も短期的には大きくないと考えられる。

 企業は新しい基準に対応するための戦略を練り、財務の透明性を高めつつ、リース利用の柔軟性を維持するための工夫が求められる。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


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