小田急「ロマンスカー新型車両」が登場へ これまでの“常識”を飛び越えられるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2024年09月14日 09時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

50000形ロマンスカー「VSE」登場と早期引退

 2028年に登場する新型ロマンスカーは、50000形「VSE」の後継とされる。

 2005年に登場した「VSE」は、「白いロマンスカー」として知られている。展望席付きの観光車両だ。この車両には「観光客需要の再開拓」という使命が与えられた。

 箱根方面行きロマンスカーは、1987年に550万人の利用者がいた。しかし2003年には300万人に減少したという。ロマンスカー全体の利用者数は1100万人から1400万人に増えたけれども、箱根方面の特急利用者が減っていた。その減少分を「EXE」が補っていた。つまり「EXE」の効果は300万人ではなく、箱根方面で減った250万人を補った550万人だったわけだ。この損失がなければ、2003年のロマンスカー利用者数は1650万人になるはずだった。

 1987年のロマンスカーは、すべて展望席付きで12編成あった。しかし2003年では、展望席付きロマンスカーが8編成で、7編成が「EXE」だ。「EXE」は箱根方面にも投入されたけれども、実はこれが不人気だった。ビジネスライクな仕様と外観が嫌われた。ロマンスカーといえば展望席で、流線型のカッコ良さだった。観光客は展望席に座れなくても、展望席付きのロマンスカーを選んでいた。この傾向は親子連れに顕著だったという。鉄道車両の外観は「乗りたくなる仕掛け」でもあった。

 2001年にJR東日本が湘南新宿ラインの運行を始めると、新宿〜小田原間に「JRのグリーン車」という選択肢が生まれた。いままで新宿でロマンスカーに乗り換えてくれた客を奪われる形になった。この対抗策として、小田急電鉄は2008年に地下鉄対応で編成分割も可能な青いロマンスカー60000形「MSE」を投入する。相互直通運転を実施している東京メトロ千代田線に乗り入れ、「メトロはこね」「メトロえのしま」を運行している。

 一方で、ロマンスカーには新たな問題が発生した。製造から20年を経過した10000形「HiSE」を使い続けられなくなった。リニューアル工事を実施すれば、あと10年は使えるはずだった。しかし2000年にバリアフリー法が制定された。鉄道車両を新造、あるいは大規模な改造をする場合は座席を一定の比率で車椅子に対応させる必要がある。ハイデッカータイプの「HiSE」では対応が不可能だった。

 ロマンスカーの人気を維持するためにも、展望席付き編成の数を維持する必要がある。しかし「HiSE」は使えない。そこで作られたロマンスカーが50000形だった。「白いロマンスカー」は、展望席車両の再来として話題になった。ところが、この「白いロマンスカー」も誕生から19年という短命で引退する。延命するため老朽化を補うリニューアル工事をしたいところだけれども、アルミ製車体は鋼製車体に比べて加工しにくい。連接車体という特殊構造のため故障時の機器交換に手間を要したからだ。

 2028年に登場予定の新しいロマンスカーは、この「白いロマンスカー」の「後継」とされている。箱根行き観光需要の維持という点で、展望席は必須だろう。

50000形「VSE」。白いロマンスカーとして人気だったけれども、リニューアル工事ができずに引退した(撮影会ツアーにて筆者撮影)

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