失敗をしてしまった社員を表彰し、さらには賞金まで与える──そんなユニークな制度を持つ会社がある。大阪府堺市で製造業を営む太陽パーツだ。
過去には5000万円という、巨額の損失をもたらしてしまった社員に対して贈られたこともあるという同賞。代表取締役の城岡正志氏は、賞の存在は同社に大きな影響を与えてきたと話す。
「大失敗賞」は30年ほど前、先代社長が発案したものだ。きっかけは、ある営業部門の社員が車のドレスアップ部品を製造・販売するという新規事業にチャレンジしたことだった。
カー用品の販売会社に売り込みをかけ、契約を締結。先方の店舗に専用の棚を設けて販売することになり、売れ行きはそこそこだったというが、ある日、大量に返品され、社員たちは動揺した。
実は当時のカー用品の販売は「棚貸し商売」。売れ残った在庫は一定期間を過ぎると返品されるという商習慣が組み込まれた契約だったのだが、十分に理解しないまま締結してしまっていた。商品は廃棄せざるを得ず、最終的には5000万円の損失を出した。当時の同社の売り上げは10億円台だったというので、非常に大きな痛手だ。ボーナスにも影響し、当事者の社員だけでなく、社内に暗い雰囲気が立ち込めた。
しかし、失敗が社員たちを萎縮させてしまっては、新たな挑戦が生まれなくなってしまう。そう考えた先代社長はこの社員に「大失敗賞」を与え、チャレンジの姿勢をたたえた。その上で失敗は笑い飛ばし、次の挑戦をしていこうという姿勢を示した。
年に2回選ばれる大失敗賞の存在は、社員の挑戦を後押してきたと、現社長の城岡正志氏は話す。
「『失敗するかも』と思っても『大失敗賞候補やな!』『大失敗賞狙ってるんか!?』などと、冗談を言いながらチャレンジする風土が醸成されました」
実際に同社の幹部は、大半が受賞経験者だという。たとえ失敗してしまっても、挑戦した姿勢を評価したい──経営側のその姿勢を社員も理解しており、大失敗賞は「一つのステータス」かつ「上位職の登竜門」として受け止められているという。
城岡氏自身も営業時代に、賞を受け取ったことがある。介護用品を海外で製造するとして取引先から受注したが、いざ商品が完成してみると、品質が低く、求められる水準には達していなかった。現地に何度も足を運び、品質向上のために試行錯誤したものの、結局は国内で作り直すことになった。
かかった時間やお金を思えば痛手だったが、次に同様の商品の依頼があった際には、国内で作るべきとすぐに判断できる。そうした学びを会社にもたらしたとして評価され、大失敗賞を受賞した。「この失敗を糧に、もっとおっきい案件を取ったろう」と決意に変えたという。
最近の同社の挑戦には、どのようなものがあるのだろうか。城岡氏はそのうちの一つに、顧客接点のデジタル化を挙げる。
これまでは取引先に直接出向き「足で稼ぐ」営業スタイルだったが、2020年のコロナ禍でやり方を維持できなくなった。当時はちょうど、城岡氏が先代と社長を交代したタイミング。売り上げは約15%低下し「どうしようか」と思ったが、周囲の「ここまで落ちたら、あとは上るだけ。気楽にやったらええやないか」と背中を押す声に励まされた。
そこで着手したのが、製品の工法ごとに特化した3つのソリューションWebサイトだ。これまでは同社が扱う製品は企業Webサイトに掲載していたが、さまざまな業界向けに幅広い商品を作ることから「結局、何ができる会社なのか」が分かりづらかった。
工法や材質、事例などを顧客自身が簡単に参照できる専門サイトを作ったことで、インターネット検索から顧客が流入し、数億の売り上げを創出した。
同社の業績を見てみると、コロナ禍の始まった2020年こそ落ち込みが見られるものの、それを除けば直近15年間の売り上げはおおむね右肩上がりだ。逆風をチャンスに変えて売り上げを伸長させられたのも、同社の風土や、それを支える制度あってこそのことなのかもしれない。
「『前向きに頑張ったけれど失敗しました。ちゃんちゃん』というものは、大失敗賞には選ばないことにしています。あくまで個々人や会社にノウハウを残せた失敗を称賛し、次につなげることが大事と考えています」(城岡氏)
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