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増える「社員向け株式報酬」、企業の意図は? 実は思わぬデメリットも古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年09月18日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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大企業への導入は効果薄?

 ミシガン大学ロスビジネススクールの教授であるE. Han Kim氏らによる「Broad-Based Employee Stock Ownership: Motives and Outcomes」という論文では、従業員に広く株式を所有させる計画が、企業の生産性や従業員のインセンティブにどのような影響を与えるかを検証した。

 この論文は、株式報酬は企業と従業員双方に利益をもたらす可能性がある一方で、特に従業員が多すぎる場合には、フリーライダー問題が生じ、効果が薄れることを指摘している。

 従業員の多くない企業が、小規模な株式報酬を採用した場合、賃金や生産性の向上に貢献し、企業全体の価値も上がる傾向が見られるという。これにより、企業の余剰利益が従業員と株主の双方に分配され、雇用が拡大することも確認できた。

 しかし、従業員の多い企業が大規模な株式報酬を採用した場合、生産性向上の効果は比較的小さい場合が多く、また賃金や株主価値に対する影響も限定的な傾向がある。

 これは、大規模な株式報酬が、本来であれば給与に充当すべきキャッシュの節約や、敵対的買収の防止のような複合的な要因で導入されていることに起因する。相対的に従業員のインセンティブを高める目的が少ないことから、効果も薄くなるというわけだ。

 そして、従業員が多い大企業においては「フリーライダー問題」が発生するリスクにも注意したい。フリーライダー問題とは、従業員自身が努力を怠り、自社株の価値向上を他の従業員に依存するという状況を指す。

 例えば、従業員1万人を超える大企業が画一的に株式報酬を導入しているケースを考える。各従業員が持っている株式の割合や経営・業績に与える影響は非常に小さいため、個々の従業員の貢献が企業全体のパフォーマンスに与える影響はほとんどない。

 このため、従業員の一部は「どうせ自分の努力が株価に大きく影響するわけではない」と感じ、仕事に対する熱意や努力がかえって低下してしまうのだ。その結果、一部の優秀な社員や部長のような管理職にしわ寄せが来てしまい、全体の生産性や業績が向上しないだけでなく、優秀層の離職を招く可能性すらあるのである。

フリーライダー問題への対策

 フリーライダー問題を防ぐためには、いくつかの対策が考えられる。まず、個人の貢献を評価する仕組みを導入することが重要だろう。株式報酬は給与ではなく、ボーナスなどにおいて各従業員が個別に評価され、付与される仕組みが望ましい。

 しかし、個々の業績のみで評価すると、従業員は人助けをするインセンティブを失い、殺伐とした企業文化となってしまうだろう。チームワークの強化と共同責任の意識の醸成も欠かせない。

 大企業では、従業員一人一人の貢献度が見えにくくなることが問題の一因だ。このため、チーム単位での目標設定や成果評価を行い、各メンバーがチーム全体の成果に対して責任を持つような仕組みが必要だ。またメンバー同士が互いに評価し合うことも、フリーライダー問題の防止になる。

 政府が検討している会社法改正により、株式報酬がさらに普及する可能性があるが、企業はそのメリットとデメリットを十分に理解し、適切な設計を行うことで、制度の効果を最大限に引き出すことが求められる。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら


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