さて、昔はディーラーで下取りが当たり前だった中古車の流通が変わったのは、業者オークションの台頭による影響が大きい。それによって業者間のクルマ取引は活性化し、中古車店の在庫車両の流動化が始まった。それまでは中古車店間で在庫車両を融通することはあまりなかったため、中古車店は地元ディーラーなどと連携し、独自の仕入れ先を確保していた。
以前は中古車店が直接買い取りしたクルマを店頭で販売するというのが常識だった。しかし、買い取り専門店が登場、増殖したことで街のあちこちに中古車店やディーラーと同じくらい買い取り専門店が乱立するようになった。
その結果、中古車販売は薄利多売のビジネスへと変化していく。さらにこれが全国に広まると、地域による需要の違いなどをうまく利用して、安く買い取って高く売るというビジネスが構築されていった。
ところで、買い取り専門店の方が下取りよりも高価で買い取るイメージがあるのではないだろうか。しかし自社で買い取って販売するのと比べると、買い取り業者と販売業者の2社が介在して、それぞれ利益を分け合うことになるから、高く買い取れるのは不思議だ。
このカラクリはこうだ。買い取り専門店は在庫を持たず、買い取ったクルマを業者間で売却することにより、短期間で現金化する。つまり、薄利多売で高価買い取りを実現しているのだ。
認定中古車など自社で販売できるような個体であれば、ディーラーでも高く買い取ってくれるケースはある。コロナ禍や半導体不足などを経て、新車購入時には納期が優先されて値引きはほとんど望めない(人気薄の車種や決算期などは別だろうが)状況だ。だから、下取り価格で競合他社と競り合うことになるのだが、結局、業者オークションに出品するしかないので、いくらで落札されるかは読み切れない。その分、価格を低めに提示せざるを得ない。
特に大規模な組織であるディーラーは、営業マンもその上司も買い取り相場を熟知しているわけではない。マージンを残しておかないと、後で始末書ものの処分を受けることにもなりかねない。
その点、買い取り業者は中古車を買い取って業者オークションに出品して利ざやを稼ぐのが本業であるから、買い取り価格の設定はよりシビアだ。しかも各店舗で個々の買い取り車両の売却額などを把握しているため、1台ごとの利益も分かる。そのため扱う台数が多い車種やカテゴリーであれば、ギリギリまでマージンを削って高い価格を提示できるのだ。
もっとも最近では、買い取り専門店も店頭で車両販売を行うことも珍しくない。業者オークションでの売却価格もビッグデータ化してくると、業者オークションで売った場合の収益と直接販売した場合の収益の差が明確になり、直接販売した方がもうかる車両は店頭で販売するのだ。
ビッグモーターは買い取りに強い中古車販売店で、都市部には買い取り専門拠点もある。業者間の競合では強みを見せていたが、昨今の不正発覚で以前の勢いは感じられなくなった(写真:WATA3 - stock.adobe.com)ビッグモーター(現在はWECARSに改名)の本来のビジネスモデルはそこだったわけで、グループ内に業者オークションを運営する企業もある。利益を追求しすぎ、パワハラによる優越感に浸った結果、暴走してしまったのは残念であるが、本来は優れたエコシステムを確立していたと見ることもできたのである。
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