株式会社wib代表
資料作成を通じたマーケティング支援サービス「スゴシリョ」を主軸に事業展開し、その姉妹サービスであるインサイドセールス支援サービス「スゴアポ」のβ版を、2024年春から提供開始。
10年前にスタートアップの世界に足を踏み入れて以来、ビジネスマッチングサービス「PRONIアイミツ」やリモートアシスタントサービス「CASTER BIZ assistant」といったB2B企業の役員として、新規事業の立ち上げや顧客開拓、マーケティングなど、事業拡大に関わるさまざまな経験を積んできた。
この連載では3回にわたり、インサイドセールス領域における市場の現状やリアルな課題、成功している企業の共通点について、筆者の経験談を交えながら紹介します。
第1回ではインサイドセールスの現状や人材確保の難しさといった課題に触れ、第2回ではインサイドセールスの採用・組織体制について紹介しました。
第3回となる今回は、自社での採用・組織体制の再構築が難しい場合の優秀な人材確保の手段として、BPOを切り口にしたノウハウを紹介します。社内外のリソースを活用したハイブリッド型のインサイドセールスや外注する際の注意点と、外注先を見極める10の質問について、筆者の経験や調査結果を交えて解説します。
ITmedia ビジネスオンラインの調査によると、インサイドセールス部門で課題に感じていることの1位は「人手不足」(38.3%)でした。どの企業も人手不足に直面しており、業務効率化・外注ニーズがあることは分かります。
一方、約7割の方が「外注をしている業務はない」と回答しています。
一見、矛盾しているように感じますが、外注が進まない理由の参考になるデータもあります。業務を外注している人にその満足度を尋ねたところ、「不満」が約7割を占め、当初想定した効果が得られていないことが分かります。
筆者の経験から推測するに、外注の必要性を認識し、アウトソーシングを検討・実施するものの成果が見込めず(出ず)断念、または内製の方がパフォーマンスが高いと判断しているのではないでしょうか。一度外注先選定に失敗すると、以降内製主義に走るケースは珍しくありません。
これから内製主義の誤解と実態について解説していきます。
世間では依然として「内製が正義! 外には出したくない!」という声が多い印象があります。筆者はこれを「なんでも内製主義」と呼んでいます。「なんでも内製主義」を掲げるインサイドセールス責任者たちの心の声は、おそらく次のようなものではないでしょうか。
外注の意思決定を行う人物は、社内で一定以上の信頼を受けている人物であり、そのような人物はこれまでに自身で成果を積み重ねてきた経験があります。
インサイドセールス業務の外注を決定する責任者たちも例外ではなく、彼らは自分に蓄積されたノウハウを生かし、それを社内で共有し、浸透させれば成果が上がると考えることが多いです。この考え方自体は誤りではないですし、実現可能性が高ければやるべきです。
実を言うと、筆者自身も数年前までは同じような考えに従い、「なんでも内製主義」を強く主張していた時期がありました。しかし、後にいくつかの誤解に気付いたのです。これから、その具体的な点について解説していきます。
「内製していることで、なんとなく会社にナレッジが蓄積されている」と感じることはないでしょうか。
そんな時、インサイドセールス担当者にぜひ自問してほしいのが、次の3つの質問です。
これらの質問に対し、3つのうち2つ以上に即答で「YES」と言えない場合、その業務を内製化する意味は弱いと考えられます。そこで得られる「ナレッジのようなもの」は、インサイドセールスチームにとって決して重要ではありません。
むしろ、その業務に特化し、PDCAを回して体系化している外注先を活用する方が、業務を迅速に進行させ、さらに後述するメリットや恩恵を受ける可能性が高くなります。
アウトソーシングを検討する際、見積もりを見て「意外と高い……」と感じたことはないでしょうか。上司と相談して「この予算は出せないから、社内の人員でなんとか対応しよう」と話したことがある人も少なくないと思います。
外注先の単価が割高になるのには、もちろん理由があります。
しかし、外注の単価が割高になる最大の理由は、これらではありません。最大の理由は「いざという時に、契約を減額または終了できる点」です。
例えば、会社の事業方針が変わり、その業務が不要になったり、経営状況が悪化して経費削減が求められたりしたとしても、自社で専任メンバーを採用している場合は「方針が変わったので辞めてください」とは言えません。これは依頼主にとって非常に大きなメリットであり、外注先にとっては非常に大きなリスクと言えます。
筆者も外部に仕事を依頼することが多いですが、自社で雇用した場合の2倍程度であれば適正な水準と考えています。もちろん緊急度や業務内容により水準は変動します。目に見えない恩恵が多い中で、目先の金額だけで判断してはいけません。
「社内で管理した方が生産性を高く保てるのでは」という意見があります。筆者は、アウトソーシングしやすいルーティン業務(テレアポ、カスタマーサポート、データ入力、請求事務、資料作成など)を内製化することには、大きな弊害があると考えています。
まず短期的には、単純作業に追われるメンバーによる不平や不満が広がる可能性が高いです。この不満は当該業務に直接関わりのないメンバーにも波及し、同調を生んで負の連鎖を加速させる恐れがあります。
中長期的な問題として、評価者と担当者の間でミスマッチが生じやすい点も重要です。短期的なストレスを乗り越えたメンバーがいたとしても、当該業務に対して高い評価を与えられるリーダーは少ないです。
特に、コーポレートや事務業務に従事しているメンバーは、ビジネスやプロダクトなど、経営の根幹に近い業務を担当するメンバーと比べて、価値が低いわけではありませんがその価値が可視化されにくいため、評価が不十分になりがちです。
その結果、評価が低いことによる不満が蓄積し、業務へのマンネリ化も相まって、メンバーが組織を離れるケースが多くの企業で見られます。こうして企業は「常に新人の事務スタッフを教育し続ける状態」に陥りがちです。外注をうまく活用することで、これらの弊害を抑えることができます。
驚くべきことに、この考え方は「マネジメントの父」ドラッカーも説いています。
しかし、さらにはるかに根本的あるいは革命的とさえいえるものは、サービス労働の生産性の向上に必要とされる条件である。すなわち多くの場合、サービス労働はアウトソーシングされるようになる。
(中略)
そして、生産性の向上に対するニーズの最も大きな領域が、トップマネジメントへの昇進が事実上不可能となっている領域である。
(出典:ドラッカー名著集8 ポスト資本主義社会)
要は「経営陣への昇進が望める仕事=会社の根幹価値につながる仕事、それ以外の仕事はアウトソースすべきだ」との主張です。26年前に発刊された原典で言及しており、学ぶべき考え方です。
筆者が伝えたいことは、内製主義がもたらすリスクであって、「何でも外部へ委託すべきだ」というスタンスではありません。ここまでの自身の経営・事業立ち上げ経験の中で外注先選定で失敗した経験もあります。
そこで、これまでの経験を踏まえて「良い外注先を見極める質問リスト」を作りましたので紹介します。われわれのチームでも、いくつかの外部パートナーに業務を委託しています。法人であれば営業担当者に、個人のフリーランスであれば本人に、必ず契約前に質問している内容です。
これまで3回にわたり、インサイドセールスの課題やその解消策について紹介してきました。インサイドセールスは、一般的にストレスの多い仕事とされ、そのため離職率も高いのが現状です。
しかし、筆者はインサイドセールスの業務が事業の成長において非常に重要な役割を果たしていると考えています。その重要性は、インサイドセールスの年収が上昇傾向にあることからも明らかです。
本連載を通じて、インサイドセールスの価値やその難しさがより広く認識・理解されることを願っています。また、インサイドセールスで活躍している方や、それを支援している方々にもっと注目が集まるよう、筆者自身も積極的に情報を発信していきたいと思います。
インサイドセールスの重要性が広く理解されることで、業界全体の発展に寄与できることを期待しています。
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