日本企業の営業組織が変わり始めている。これまでスタンダードだった「属人営業」は、過去のやり方だという認識が強まってきた。
モノを売る提案から、SaaSなどのコトを売るソリューション提案への変化。営業活動を“勘や経験に頼らない”ための、デジタルツールやデータ活用の浸透──と、営業組織を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。
そして、コロナ禍による営業スタイルの変革が決定打となった。必然的に顧客先への訪問回数は減少し、従来手法の限界が露呈。しかし、古くから「俺の客意識」が強く、営業慣習が染みついている大企業では、大きな組織変革やデジタルツールの浸透は容易ではなかった。
そんな彼らのロールモデルとなり得るのが「富士通」だ。もちろん、同社の営業組織内でも「俺の客」という意識は強くあった。組織内のメンバーだとしても自身の手の内を明かしたくないという、典型的な「属人営業組織」だった。しかし、それでは刻一刻と変化する市場で競争力を保ち続けられない。
2020年にたった3人で発足したインサイドセールスは同年、営業と連携しながら合計600社1400部門にアプローチし、100件ほどの新規獲得、33件の受注という成果をたたき出した。
長年続いてきた「当たり前」を壊すのは一筋縄ではいかない。「反発しかなかった」状態から、どのようにインサイドセールスは組織の中で不可欠な存在に代わっていったのか? 富士通CRO室 Head of Deals Creation 友廣啓爾氏と、CRO室 Deals Creation シニアディレクター 及川美智代氏に話を聞いた。
今でこそ社内でインサイドセールスの存在感は増してきたが、発足当初は懐疑的な見方が強かった。最初の3カ月は、経営層からプレイヤー層にまでインサイドセールスの意義や実現できることなどを説明して回る日々が続いた。
「説明する中で、どのレイヤーでも大企業あるあるの『俺の客に触るな』問題が一番意見として多く出ました。1人の営業が1社を長く担当している結果、そこに他の人間が介入することで案件が取られるのではないか、クレームにつながったらと懸念されていました」(友廣氏)
上層部には、THE MODELもインサイドセールスも知らない人もいた。現場のメンバーからは「電話でお客さまとの信頼関係が築けるわけがない。足を運んでなんぼ」という意見も当たり前のように出た。
説明の場を300回以上設けたが、ポジティブな意見はほとんどなかったという。「ただ、社内で説明を重ねたり、外部メディアなどを活用して発信したりする中で、若手営業社員から『富士通ってこんなこともやっているんだ』と興味を持ってもらえることはありました」(及川氏)
インサイドセールスは営業のバディであり、顧客を奪う存在ではない。潜在顧客のニーズを探り、確度の高いリードを発掘し営業につなぐという仕事を丁寧に説明した。結果、同年11月に22の営業部門でPoCをスタートさせることになった。
実施期間は約3カ月間。アプローチリストを一巡できる期間であることと、PoC止まりにせず早期に成果を証明したいという思いから設定した。営業部門からは「お手並み拝見だね」との発言もあったというが、3カ月という短い期間でどのように組織内に浸透させ、成果を出していったのか。
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