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物言う株主を「けむたがる企業」に未来はない ピンチを“チャンスに変える対話”とは投資家ウケする人的資本開示(2/2 ページ)

» 2024年09月25日 07時00分 公開
[白藤大仁ITmedia]
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 昨今では、社外取締役や投資家との対話の場を設ける企業も増えています。以下では三井物産と三井化学の例をご紹介します。

三井物産:インベスターデイで「人材マネジメント」についてディスカッション

 三井物産では、インベスターデイを設けて、経営陣と社外取締役が対談を行っています。

 「インベスターデイ2023」では、社外役員パネルディスカッションを開催し「人材マネジメント」をテーマに、同社の人材戦略の特徴や課題、D&Iの進捗(ちょく)、女性社員が活躍できる職場づくりに必要なポイント、企業価値向上に対する人材戦略やD&Iの関連性などを話し合いました。

三井化学:機関投資家のスモールミーティング

 三井化学では、ステークホルダーとの対話を深めるため、社外取締役と機関投資家のスモールミーティングを行い、対話の模様を統合報告書で紹介しています。

 スモールミーティングでは、対面およびオンラインで参加者からの質問に答えながら、社外取締役のミッションや長期経営計画「VISION 2030」の戦略、三井化学グループの未来などについて語りました。なお、参加した機関投資家は21社26人でした。

アクティビストとの対話事例

 次に、企業とアクティビストとの対話事例として、豊田自動織機、花王、オリンパスの3社を取り上げます。

豊田自動織機:社の方針を新たに提示し、株主提案は取り下げに

 豊田自動織機は2024年5月、仏ファンドのロンシャン・SICAVから5000億円を上限とした自社株買い、資本効率改善に向けた取り組みの開示など、計3件の提案を受け取ったと発表しました。

 それに対して、豊田自動織機は1年間で1800億円を上限とする自社株買いを実施する他、2027年3月期までの3年間の株主還元額を合計約7000億円とする方針を示しました。また、2024年3月期に4.6%だった自己資本利益率(ROE)を2027年3月期〜2028年3月期頃に6%に高め、中長期では8%を目指すという目標を設定しました。

 その結果、これらの株主提案は取り下げられ、豊田自動織機は「企業価値向上への取り組みに対する方向性が評価された」とコメントしています。

花王:業績不振事業の縮小を求められ、株価が急騰

 花王は、アクティビストとして知られる香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントから、化粧品とスキンケアブランドの国際的な成長に重点を置き、業績不振の事業を縮減するよう求められました。その結果、株価は急騰しました。

 花王は、オアシス・マネジメントの主張に対し、2023年12月期決算で示した積極的なポートフォリオ管理や構造改革について十分な理解がなされていないという見解を示しました。

 一方で、経営戦略に基づき長期的な視点で株主価値の向上に努めているとし「オアシスおよび全ての株主と直接かつ建設的に関わり、課題を解決するための新たな視点を歓迎する 」とコメントしています。

オリンパス:アクティビストの理解の深さを認め、社外取締役を受け入れる

 2019年、オリンパスは米国の投資ファンド、バリューアクトから社外取締役を受け入れました。その理由を当時のCFOであった竹内康雄氏(現CEO)は「意見交換してみるとまともな投資家で、アクティビストも一様ではないと思い始めた」と振り返ります。バリューアクトは、オリンパスのことをよく調べ、理解も深く、独自の展望を持っていました。

 また、短期的な利益ではなく長期的な視点で企業価値向上を目指すという姿勢でもオリンパスの考え方と一致していました。以降、赤字が続くデジタルカメラなどの映像事業を売却し、医療事業へと経営資源を集中させるなど、ともに中長期の企業価値向上に向けた取り組みを進めています。

おわりに

 昨今、非財務情報の開示要請が高まっていますが、その確実性を担保する目的で、既に欧州で行われているように非財務情報を監査の対象とする必要性も議論され始めています。

 このように非財務情報の開示要請が高まる中で、上場コストも高まっています。上場するとは「市場との対話に向き合う」ということに他なりません。

 市場で競争力を発揮し続けるためには、対話に向き合うという覚悟が必要です。アクティビストに対する考え方をアップデートして、積極的な対話を重ねていくことが重要でしょう。

著者プロフィール

白藤大仁 株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズ代表取締役社長

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2006年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。19年、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。

「オンリーワンの、IRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を展開。プライム企業を中心に、統合報告書の制作や決算説明会の配信支援など、IR領域で幅広いソリューションを提供している。23年より、特定非営利活動法人 日本IRプランナーズ協会 理事。 投資家との対談やメディアでの解説実績多数。


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