世界では年間で1000万人ががんで亡くなっている。日本でも2人に1人ががんになるといわれて久しい。テクノロジーの発展は、がん治療の在り方をどこまで変えられるのだろうか?
本記事では、日立製作所が9月4〜5日に東京国際フォーラムで開催した「Hitachi Social Innovation Forum 2024 JAPAN」の中から、ビジネスセッション「デジタルで進化するがん医療の最先端」の模様をお届けする。AIを使った新しい診断法や治療法の開発、個別化医療の推進に向けたゲノムデータ解析など、デジタル技術の進化が、がん医療にもたらす変革とその未来について展望した。
登壇者は国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野隆志氏、フリーアナウンサーの町亞聖氏、日立ハイテク 常務執行役員CDO 兼 DXプロジェクト本部長 兼 ヘルスケア事業統括本部長、高木由充氏の3人。
同社は2001年、エレクトロニクス専門商社である日製産業と日立製作所計測器グループ、同半導体製造装置グループが統合し誕生した企業だ。同社のヘルスケア事業は、これまで血液検査などの体外診断システムを中心としていたが、2024年4月に日立製作所の放射線治療システムなどを承継。診断から治療にわたる幅広い事業を推進している。
ビッグデータがもたらす個別化治療の可能性は、どんなものなのか?
長い年月をかけて着実に進化し続けているがん医療が、ここ最近、急速な進展を遂げている。2019年6月に「がん遺伝子パネル検査」が保険適用になったことが大きな要因だろう。がん遺伝子パネル検査とは、がんの発生にかかわる複数の遺伝子の変化を調べ、患者一人ひとりに合った治療法を見つける検査だ。
日本におけるがん遺伝子パネル検査の現状について、C-CATセンター長の河野隆志氏は次のように話す。
「日本は皆保険なので、みんなが同じようにがん遺伝子パネル検査を受けられます。しかし、この検査の認知度はまだ高くありません。一般の方はもちろん、医療従事者にもがん遺伝子パネル検査の存在を広く知ってもらうことによって、検査を受けるチャンスが増えていくと思います」
現在、がんゲノム医療を担う医療機関は全国に266カ所あり、どこでも同じ検査が受けられる。その検査結果をもとに、さまざまな専門家が集まり、エキスパートパネルと呼ばれる会議を開く。この会議では、特定の薬剤がどの程度の効果があるかを協議し、検出された遺伝子異常に効果が期待できる薬剤があるかを検討する。
C-CATでは、医療機関からがん遺伝子パネル検査の検査結果や診療情報を受け取ったあと、日本のがんゲノム医療データベースに登録。医学文献や治験、臨床試験の情報を追加した「C-CAT調査結果」を各医療機関に返却している。結果を受け取った医療機関では、担当医や専門家が集結し、患者一人ひとりに合わせた治療法をエキスパートパネルで検討できるという。
8月31日時点で、C-CATには8万5000例以上のがん遺伝子パネル検査データが登録されている。登録者数3万例時点の集計によると、エキスパートパネルにより治療薬の選択肢が提示された症例は44.5%、提示された治療薬を投与した症例は9.4%だった。この現状について河野氏は「どのような薬が効くのかを検討し、患者さんに正確な情報を提示するには、最低でも10倍のデータが必要です。しかし、検査の数が増えていくと、医療現場にかかる負担が大きくなってしまいます。例えば電子カルテから情報を出力して、自動でC-CATに送るようなシステムが作れたら、がんゲノム医療はさらに発展すると思います」と話す。
C-CATに集まっているデータは、さまざまな研究機関や製薬企業、検査企業に提供され、医薬品の開発や医学的な知見の創出のために利用されている。河野氏は「ビッグデータの最大のメリットは、症例の少ない希少がんの情報を集計できることです。日本人に特異的ながん種や、薬が効きやすい人の特徴など、詳細な情報を検索できるようになっています。製薬会社や研究者に利用していただくことで、次世代に向けた治療法が開発されていくと期待しています」と話し、これからのデータの利活用について次のように語った。
「患者さんが協力してくれて、病院がデータを入れてくれて、検査会社が解析してくれる。この協力関係で成り立っている、いわばドリームチームなのです。ただ、遺伝子パネル検査が広がると、どこも負担が増えてしまいます。あらゆる企業とコミュニケーションを取りながら、デジタルテクノロジーをうまく取り入れていきたいです」(河野氏)
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