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全く異なる事業間で、どうシナジーを創るか? ソニー人事が挑む難題【後編】徹底リサーチ! あの会社の人的資本経営(1/2 ページ)

» 2024年09月26日 07時00分 公開
[奈良和正ITmedia]

連載:徹底リサーチ! あの会社の人的資本経営

近年、注目される機会が増えた「人的資本経営」というキーワード。しかし、まだまだ実践フェーズに到達している企業は多くない。そんな中、先進的な取り組みを実施している企業へのインタビューを通して、人的資本経営の本質に迫る。インタビュアーは人事業務や法制度改正などの研究を行う、Works Human Intelligence総研リサーチ、奈良和正氏。

 「他の事業の社員が何をしているのか、知らない社員も少なくない」というほど、幅広く多様な事業を有するソニーグループ。平時の業務では交わらない事業や人材間のシナジーを創出する──この難しいミッションに、同社の人事部門はどのように取り組んでいるのか。

 グループ人事部の岩崎千春氏(組織・人事グループ ゼネラルマネージャー/崎は「たつさき」)と人事部門の山菅裕之氏(技術人事部 統括部長)にインタビュー。インタビュアーは人事業務や法制度改正などの研究を行うWorks Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏が務めた。

前回の記事はコチラ

 後編となる今回では、人材育成施策やソニーグループのシナジー創出に関する取り組みを取り上げる。

「越境体験」を支える人事施策

奈良: これまで、ソニーグループが取り組まれてきた人事施策についてお話をうかがってきました。今後、注力していきたいお取り組みについてもお聞かせいただけますでしょうか。

岩崎: はい、人事施策についてご説明する前に、当社の経営方針についてお話しさせてください。ご存じの通り、2010年代の業績不振から前CEO平井や現CEO吉田の舵のもと、いくつもの変革を繰り返し、当社は再生を果たしました。

 現在の業績は安定してきたものの、競争が激化する市場の中でさらに成長していくためには、第五次中期経営計画にも掲げた「Beyond the Boundaries」(境界を超える)をキーワードに、グループシナジーの加速と進化の取り組みを進める必要があります。そのため、(人事領域においては)多様な人材と事業を掛け合わせ、相乗効果を最大化する越境体験の創出を推進しています。

奈良: ゲームや音楽、映画、家電……ソニーグループの多様な事業を掛け合わせて、いかに市場を生み出すかということですよね。

photo Works Human Intelligence総研リサーチの奈良和正氏

岩崎: そうですね。そして、人事施策においては事業や地域を越えた社員の活躍を支援するような取り組みを重視しています。

 まず、人材の配置で言いますと、グローバルな人材活用、技術や知識の移管、新しいビジネスの立ち上げを目的に、1000人弱の社員が世界各国・地域に赴任しています。

 そのうち海外グループ各社からの異動者は約100人で、管理職が約50%を占めている状況です。

 こちらに関しては、日本から海外のエレクトロニクス系事業会社に赴任するケースが多いので、今後はエンターテインメントへの異動や海外赴任を増やしていきたいと思っています。

奈良: 人材配置に関する取り組みをご紹介いただきましたが、シナジーの創出においてはモビリティを高めるような施策に重きを置かれているのでしょうか。

岩崎: モビリティを高めることだけに注力していくというよりかは「人と人とをいかにつなげていくか」のようなイメージで取り組んでいけたらと考えています。ソニーグループは事業も多様化しているので、人が動くには結構難しいのもありまして……。

 また、評価や等級においても、エンターテインメント事業は完全に独自の等級制度、評価制度になっていたり、同じグレード制度、評価制度を導入している会社もあったり。

 評価と等級・報酬を各事業部で決めているというのもあり、異動が簡単ではないという事情があります。

 コングロマリットの会社になってきているので「人と人とをいかにつなげていくか」に主軸を置いているという次第です。

奈良: 人材の異動によるシナジー創出というよりは、異動以外の施策でシナジー創出を促すということですね。

岩崎: そうですね。企業戦略が成長と変革のフェーズに切り替わる2015年頃、社員の新しい視点や独創性を引き出すために社内公募制度に加え社員が自主的に挑戦したくなるような制度を設けました。

 一例としてご紹介しますが「キャリアプラス」という現職を続けながら別の部署の業務や新たなプロジェクトに参画する兼業型の制度を設けて、会社からの発令ではなく社員の手挙げを募集しています。

 異動せずとも横で人がつながり、いろいろなプロジェクトに関われるという点が社員からも評価されていますので、こういった制度の利用を促すことでよりシナジーを生み出していけたら良いと考えています。

奈良: ありがとうございます。兼業など、社員の自主性も促しつつシナジーの創出を目指されていくということですね。働き方の部分だけでなく、中編で育成施策としてご紹介いただいた「ソニーユニバーシティ」や「技術戦略コミッティ」にも、シナジー創出効果を期待できそうですよね。シナジー創出という観点で改めて施策をご紹介いただけますか。

シナジー創出を支える「ソニーユニバーシティ」と「技術戦略コミッティ」

岩崎: はい、まず将来の経営をリードする人材を育成する「ソニーユニバーシティ」ですが、1クラス30人で半年間過ごすので、プログラム同期など、多くの人脈を形成することができます。さまざまな視点が入ってくることになるので、新たな議論や発見が生まれるんですよね。

 当社は多様な事業を展開しているので、同じソニーグループの社員なのにお互いのビジネスや事業内容に疎い部分があります。例えば映画事業の社員からすると、半導体事業の社員がどのようなことをしているのか分からない。

 しかし、ソニーユニバーシティへの参加を通じて、お互いどのような事業をやっているのかを知ると、One Sonyを感じられるようで、そういうところからシナジーの種が生まるのではと思っています。

奈良: 確かに、普段自分が担当する業務や事業以外のことは知るきっかけがないとなかなか学びが広がっていかないですよね。シナジーを創出することにおいて、社員に多角的な視点をもってもらうことがファーストステップなのかもしれません。

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