冷凍事業のコンサルティングを提供する、えだまめ社(東京都渋谷区)が手掛けた、日本酒アイス「SAKEICE」が台湾でヒットしている。2022年から輸出しており、約2年で輸出額は5倍に増えた。
SAKEICEは日本酒を混ぜ込んだアイスクリームだ。原料に日本酒をたっぷりと利用し、日本酒の香り・うま味を再現。高アルコール度数(約4%)の大人な味わいを実現している。
コンサル業以外に商品を開発してみたいという思いがあったのと、当時、カップアイスクリームのスーパーカップにワンカップ大関をかけて食べるとおいしいという投稿がSNSで話題になっていたことをきっかけに2018年末から開発に乗り出した。
2020年3月に販売にこぎつけたが、1年以上にわたる開発期間の中でさまざまな試行錯誤があった。
アルコール成分は凍りにくく溶けやすいという特徴を持つため、アイスに練りこんでも家庭用冷蔵庫で完全に凍らせることは難しかった。また、そもそもアルコールが1%以上含まれる飲食品の製造は酒造行為とされ、酒造免許と酒販免許が必要だった。当時、えだまめ社は酒造免許を保持していなかったという。
技術面や法規制の問題をどのように乗り越えたのか? また、なぜ台湾で人気を獲得しているのか。その秘密を同社の代表取締役 成田博之氏に取材した。
台湾での人気がじわじわ広がっているSAKEICEだが、国内での支持も高い。発売から累計18万食を突破した(2024年8月時点)。現在は15〜20種類の味を展開。レギュラー商品の八海山や男山のほか、EC限定商品や店舗限定商品なども販売する。
堅調な伸びを見せるSAKEICEだが、その道のりは決して平たんではなかった。100以上のレシピを試し、1年以上の試行錯誤を繰り返した。
その中でも特に、日本酒の凍りにくく溶けやすくなる性質を解消し、アイス商品として成立させることと、練りこむそれぞれの日本酒の味わいを香りをしっかりと残すこと。その2点に苦労したという。
「アイスとして凍結されつつ、食べるときに溶ける状態になるよう、当社の冷凍技術を駆使して繰り返しました。凝固点が低いアルコールを含む水分でもアイスクリームになるように、オリジナルのパウダーを調合しています。成分は砂糖、脱脂粉乳、イヌリン、でん粉、寒天、こんにゃく粉などを独自比率で混ぜ合わせました。試行錯誤した製造プロセスと組み合わせることで凍結に成功しました」
日本酒の味わいをしっかり残すことにもこだわった。辛口の日本酒なら辛口の味わいに、フルーティーな日本酒であれば香りがしっかり残るようにと、アイスクリームとミスマッチを起こさないような工夫を施している。
「おいしいものを作りたいという思いと、日本酒離れにより低迷する市場の活性化の一助になればというモチベーションで取り組んできました」と成田氏は振り返る。
SAKEICEの完成が見えてきた中、次の問題にぶつかることになる。酒造免許を保持していなかったため、SAKEICEの製造は法令違反に当たることが分かったのだ。
「2019年頃から製造許可を得るために国税庁に掛け合っていました。半年ほど時間をかけ、現行の法律の一部を解釈変更するという『法令解釈変更』により、酒造免許不要で製造ができ、さらに、酒販免許不要で販売が可能になりました」
2020年3月、ようやくSAKEICEは日の目を見た。現在は酒販免許を取得し、東京駅の店舗ではコラボした日本酒を中心に販売している。
【訂正:2024年9月26日午前11時36分 初出で「酒造免許を取得し」と記載しておりましたが、「酒販免許を取得し」に訂正いたします。】
SAKEICEが台湾で初めてお披露目されたのは、2022年11月にさかのぼる。「北國際酒展」という展示会に出展し、その後も同イベントに計4回出展した。今年の11月にも出展する予定で、そこでは過去最大の商品ラインアップになるという。
「海外進出の第1弾は、日本酒への関心が高い地域のほうがうまくいくだろうと考えていました。展開先を探す中で、台湾に空前の日本酒ブームが来ていることを知り、進出先を決めました」
数年前からクールジャパンの一環で、日本酒は「SAKE」として人気を博していたが、その中でも台湾の日本酒需要の伸長率は顕著だった(参照:財務省貿易統計「各酒類の主な輸出先2023」PDF)。
「2023年の各酒類の主な輸出先調査では輸出金額1位は中国、台湾は5位であるものの、中国への輸出は減少している一方で、台湾は対2022年で20%も増加しています。台湾の日本酒需要の関心の高さは数字でも、実際に現地の展示会などで出店をしている時にも肌感で感じます」
台湾では1カップ約800円(2024年9月20日時点でのレート換算)で、13種類を展開する。開発中のフレーバーを含め、12種類が台湾限定だ。
日本では、八海山や男山といったメジャーな日本酒ブランドのフレーバーが好まれる傾向にあるが、台湾ではライチやレモンなどフルーツ系のフレーバーが好まれる傾向にあると、成田氏は話す。まずは馴染(なじ)みのあるフレーバーから試してみようという気持ちの表れだと考えられる。
「日本と台湾だとファン層が大きく異なります。年代や性別にかかわらず、日本酒が好まれているように感じます。実際、20代くらいの女性が展示会で日本酒を購入するシーンに何度も遭遇しました。日本酒好きが世界で広まっていくのを間近で見れて嬉しいです」
台湾での2024年の売り上げは20202年に比べて、7月末時点ですでに5倍を記録している。成田氏はこの理由について、以下の3点を挙げた。
特にフレーバー開発にあたっては、必ず台湾チームの意見を聞くようにしているという。日本で試作したものを都度台湾に空輸し、台湾の合弁パートナー企業の社員を中心に試食してもらい、味を決めている。
「食ビジネスにとって、ローカライズは非常に重要です。今後も台湾の方の口と文化に合うものを開発し続けていくことが大事だと考えています」
2024年9月には台湾で現地法人を設立。現地製造をスタートさせ、コストを下げることで、コンビニや小売店でも展開し、販路を拡大していくとしている。2024年通年で1000万円程度の輸出額を目標に掲げ、2026年には台湾国内で年間10万食の規模に成長させることを目指す。
成田氏は、台湾の消費者のし好や消費傾向を踏まえ、今後のSAKEICEの展望について以下のように話した。
「日本ではほぼ特定地域でしか流通していませんが、台湾では有名な日本酒銘柄というものがすでに存在しています。海外市場は日本酒業界にとっては今後重要になるのは間違いないので、アイスに混ぜるという特殊なアプローチですが日本酒業界に貢献していきたいです。台湾展開が軌道に乗った際には、台湾をハブとしてアジア全域に輸出を拡大したいと思っています」
まずは足元の台湾で成功体験を作っていくことが先だが、台湾と文化的にも物理的にも距離が近い地域は進出先として有望だという。
「中国では、高級酒のマオタイを入れたアイスが一時期流行したこともあるため、アルコール入りアイスが受け入れられる土壌はあると考えています。台湾ほどではないですが、東南アジアでも日本酒への需要が高まっています。土地柄アイスクリームの需要が大きいので、日本酒需要が高まったタイミングで商機があるのではと思っています」
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