この記事は、パーソル総合研究所が6月19日に掲載した「『本音で話さない』職場はなぜできるのか」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。
近年、企業内の人事管理のさまざまな場面で、 対話的なコミュニケーションの重要性が着目されている。組織不祥事の防止も個別のキャリア支援も、その課題の中心には「対話」による解決の模索がある。
本コラムでは、そもそも本音・本心で話し合う「対話」的と呼べるようなコミュニケーションが職場でどのくらい行われているのか、そして従業員が「本音を話せない」要因は何かということについて、パーソル総合研究所の最新の調査から定量的なデータに基づいて詳述したい。
「対話」の重要性が説かれている背景には、以下の組織についての課題感の上昇と、その解決策としての「対話」への期待がある。
一つは「組織変革」のためだ。既存事業の成長が鈍化していく中、企業が組織変革や業務変革を狙うとき、「現状の何が課題なのか」「現在のボトルネックは何か」といったことについて、現場からの率直な意見交換が必須である。制度変革や方針伝達をトップダウンに進めるだけでは、組織の変化に限界が存在する。
また、組織不祥事や不正事象が日々ニュースを騒がせている中で、現場で起こる不正を黙って見過ごし、正確な状況が上に報告されない問題が根本にあることも多い。実際、パーソル総合研究所が実施した「企業の不正・不祥事に関する調査」においても、風通しが悪く、属人思考(発言内容よりも誰が言ったか、が優先される風土)の組織風土が、不正リスクを高めていることが明らかになっている。
次に「キャリア支援」の変化である。「キャリア自律」が多くの企業のキャリア支援のスローガンとなったように、キャリア施策は昇進・昇格というタテ方向の上昇を軸としたものから、個々のキャリアの方向性の違い(ヨコ方向の多様性)に寄り添うものへと大きく変貌を遂げた。
そうしたキャリア施策の中でも、異動希望アンケートを取るような表面的なものではなく、上司とのキャリア対話やキャリア・コンサルティングといったコミュニケーション機会の拡充が進んでいる。そこでは、「人と話す」ことによるキャリアの自己認識の高まりや過去の仕事を振り返る効果が期待されているだろう。
最後は、時代に即した「部下マネジメントの変革」のためだ。就業者意識やビジネスの変化に即した部下マネジメントが求められていく中で、世界的にも「対話型」のマネジメントを重視するトレンドが続いている。その具体的な表れとして、1on1などの定期面談・キャリア面談の機会を拡充する企業が増えてきた。そこでは、主に上司の対話への姿勢やスキル向上が求められることが多い。
このような「対話」的コミュニケーションへの着目に比して、実践的な課題は山積している。そもそもの対話機会の少なさや長時間労働による余裕のなさ、風通しの悪い風土など、そのハードルは多岐にわたる。定量的な論拠やデータがないままに、施策実施が「担当者の思いの強さ次第」といった様子もしばしば目にする。そこで、筆者が担当したパーソル総合研究所の調査から、具体的データを見てこの「職場の対話」を分解していきたい。
まずはシンプルに、職場の会話機会のうちの「本音」で話せる割合を見よう。上司との面談やチーム単位の会議において本音で話せる割合を聴取したところ、それぞれ約4割が「全く本音で話していない」と答えた。本音で話せる割合が「2割未満」も含めれば、過半数以上の従業員が、上司面談・会議において本音・本心でほとんど話していないという、いささかショッキングな結果となった。
より直感的に分かりやすいのは、職場内での本音で話せる相手を聴取した質問だ。そのような相手は「1人もいない」とする者が50.8%と圧倒的に多い。やはりここでも、誰とも心を通わせていない従業員が半数以上を占めている。
本音を話せる相手の属性としては、「同年代の同僚」が多く、4人に1人は本音を話せているが、ここでも「上司」は16.4%と少ない割合にとどまっている。これでは、マネジメント変革のために、例えば1on1を必須化したとしても、部下にとっては本音を話せない上司との対話機会が増えてしまうだけだ。
なお、この調査は「本音」の内容をあえて特定せずに本音割合などを聴取し、その後「本音」と感じる会話内容を聴取するという段階的な聴き方を採用している。
本音の内容は、「職場や会社に対する疑問、不満」が最も多く、次に「仕事のやり方や進め方についての意見」が続く。年代別に見ると、高齢層は「現在の仕事・職場」についての内容、若年は「キャリア関連」の内容において本音で話せたと感じる傾向が強いことも分かっている。
また、別コラムで紹介するが、職場でのコミュニケーションで本音で話せている人ほど、ジョブ・クラフティング(自分に与えられた仕事を主体的に捉え直すことで、やりがいのあるものに仕事をつくり変えていく取り組み)、ワーク・エンゲージメント(仕事に対しての活力・没頭・熱意といったポジティブな心理状態のこと)、個人パフォーマンス(主観)、はたらく幸せ実感(働くことを通じて、幸せを感じている状態)が明確に高いことが示されている。
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