AIブームで電力需要が急増 ESGファンドのハイテク企業投資に影響か

» 2024年09月30日 15時40分 公開
[ロイター]

 AIブームで大量の電力が必要になったのに伴い、大手機関投資家は米Microsoftや米Alphabetに電力需要についての詳細な情報の開示を求めている。今後もこれらの企業をESG(環境・社会・企業統治)ファンドに大きく組み入れ続けるべきかどうかを判断するためだ。

 こうした問題が話題に上り始めたのは最近だが、ロイターが取材した欧米のファンド業界幹部6人は、AIブームによる環境への影響を以前より注視していると明かした。ゴールドマン・サックスの推計では、AIブームによってデータセンターの電力需要は2030年までに160%増加する見通しだ。

 これらAI関連企業への投資削減を検討していると述べた幹部は1人もいなかった。ただAI開発競争をリードする大手ハイテク企業の一部では、既に温室効果ガス排出量が増加し始めており、リターンだけでなく環境も重視する資産運用会社は問題を提起し始めている。

AIブームによってデータセンターの電力需要が増えている。写真はデンマーク・フレデリカにあるGoogleのデータセンターの冷却タワー(出典:ロイター)

CO2排出増えれば投資に影響も

 AIとクラウドコンピューティングは成長の重要な推進力である以上、ハイテク業界の電力需要が衰えることはなさそうだ。もっとも、データセンターのエネルギー効率が大幅に向上すると予想する声も多い。

 ESGファンドにとって、ハイテク株の多くは人気の投資先になっている。製造やエネルギーなどの他の産業よりも温室効果ガスの排出量が少ないにもかかわらず、突出した利益を上げているからだ。

 ESG投資は新型コロナウイルスのパンデミック期に盛り上がった後、やや人気が落ちている。それでもデータ会社モーニングスター・ダイレクトのデータによると、欧州連合(EU)の「サステナブルファイナンス開示規則」第8条および第9条の基準を満たす、最も厳格なESGファンドの保有株式は依然2兆2400億ドルに上る。世界の株式ファンド総額は2023年時点で約30兆ドルだ。

 いわゆる「8条ファンド」は「環境または社会的な特徴等を促進する」、「9条ファンド」は「サステナブル(持続可能な)投資を目的とする」と規定している。

 最大規模のESGファンドの上位保有銘柄を見ると、米Apple、米Amazon.com、米Alphabet、米Microsoft、米Meta Platforms、米NVIDIAなどの巨大ハイテク企業が名を連ねている。

 投資家やアナリストは、温室効果ガス排出量を巡る懸念が払拭されない場合、これらの投資の一部に影響が出る可能性があると言う。

 デンマークのノルデア・アセット・マネジメントの責任投資部門を率いるエリック・ペダーセン氏は「ハイテク企業に対して気候変動について働きかける上で、当社はAIという切り口をその中心部分に据えることになるだろう」と語った。

 企業が現在および将来にわたって再生可能エネルギーを利用するという約束をしっかりと守らなければ、運用担当者は厳格なESGファンドの一部からそれら企業の株式を除外する可能性もある。

AIがESGファンド構成を大きく変える可能性

 ペダーセン氏は、ESGファンドの標準的な構成を最も大きくシフトさせる可能性がある分野のひとつがAIだと指摘。AI関連企業は、ノルデアのESG基準を満たすのが難しくなるかもしれないという。

 ノルデアの運用資産2650億ユーロ(2917億ドル)には、Microsoft、Amazon、Alphabet、Apple、NVIDIA、Metaの株式への投資約170億ユーロが含まれている。

 モルガン・スタンレーのカルバート・リサーチ・アンド・マネジメントのシニアESGリサーチアナリスト、ジェイソン・チー氏は、各社に現在のエネルギー使用に関するより詳しい情報を求めている。チー氏は、電力供給契約(PPA)などのデータ開示で先頭を走っているのはMicrosoftだが、同氏が望むほど多くの情報を提供している企業は皆無だと述べた。

 投資家は、企業自らの温室効果ガス排出量だけでなく、関連するサプライチェーン(供給網)からの、いわゆる「スコープ3排出量」についても、より多くの情報開示を求めるようになっている。

Amazonは原発からの電力購入もスタート

 コンピューティングとデータセンターにおける電力需要増という課題は、ハイテク企業自体にとっても見過ごせるものではない。

 Microsoftは2023年にサプライチェーンの温室効果ガス排出量が30.9%増加したと発表。Alphabetは総排出量が13%増加したと報告している。両社とも、排出量の増加は課題だと表明した。

 Metaは今年、2020年以降は事業活動による排出量実質ゼロを達成していると説明。ただ、2030年までにバリューチェーン全体の排出量を実質ゼロにする目標については、AIに必要な電力を考えると達成がずっと困難になるとの見通しを示した。AmazonとAppleは最新の環境報告書で、排出量が減少していることを明らかにした。

 カルバートのチー氏は、AI開発の段階ごとに、サプライチェーンの中で電力需要が集中する部分は異なってくると予想している。つまり、現在はデータセンターが大量の電力を必要としているが、将来的には他の企業でより多くの電力が必要になる可能性もある。またAI推進派は、AI技術が最終的には他の産業分野のエネルギー効率向上に役立つ可能性があると主張している。

 企業がAIに必要な電力を低炭素エネルギーで担おうと努めていることは、原子力発電への投資増加にも表れている。Amazonは今年、再生可能エネルギーを補うために原発からの電力購入を開始すると発表した。またMicrosoftは先週、ペンシルベニア州の原子力発電所の再稼働を支援する契約を結んだと発表した。

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