人手不足が深刻化し、採用難が進む中、企業は人材確保に向けてどのような手を打てばいいのか。求職者に選ばれる企業の特徴とは――。さまざまな事例を通じて、採用がうまく進む企業の特徴を明らかにする。
本連載の第1回では、採用を進めるための重要なポイントの一つに、「求める人材像の明確化」を挙げました。かつてと比べ、こうした取り組みに注力しているのが、Web・インターネット業界です。
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インターネット企業の多くは、プロダクトやサービスの開発を「内製」しているため、常にエンジニア、デザイナーを求めています。また、人材流動が激しい業界であるため、各企業では常に欠員補充の募集が行われています。
このような状況下、業界の採用活動において昨今、変化が表れています。かつては「幅広い業務をお任せします」と記載する求人が多く見られました。事業が変化しやすい業界であることから、採用段階で担当職務を限定することが難しかったのです。変動の可能性を前提として、「裁量権の大きさ」を魅力として訴求してきました。ところが最近では、「入社後に任せる仕事やキャリアパスを具体的に示す」という動きが広がっています。
背景にあるのは、人材獲得のハードルが高まっていることです。新型コロナウイルス感染症の流行を機にWebサービスの需要が拡大し、「非ネット業界」――つまりWeb・インターネット業界以外の事業会社も、Web人材の採用に乗り出すようになったからです。そこで、求職者が入社後の活躍やキャリア構築のイメージを明確に描けるように、任せる業務・役割を詳細に示すようになっているのです。
例えば「Webサービスの企画職を募集」という漠然とした求人ではなく、「新規事業の構想があるが、シェアを獲得して売り上げにつなげられるかどうか、マーケット調査・分析を任せたい」「新規事業の骨子は固まっており、開発体制も整っている状態で、具体的なサービスへの落とし込みを任せたい」といったように、組織の中での機能・役割を明確に定義した上で、募集する企業が増えています。
こうした取り組みにより、求職者は「自分の強みが生かせる」「自分がやりたいことにマッチしている」と判断でき、応募・入社を決断しやすくなるというわけです。
しかしながら、採用ポジションの仕事内容・役割を具体化しても、採用が進む企業と、そうではない企業があります。その差は、人事が事業部門、すなわち「現場」と協働できているかどうかにあります。
リクルートの人材紹介サービス「リクルートエージェント」で採用を支援しているネット企業・A社の事例を紹介します。A社が採用に苦戦した要因は、何だったのでしょうか?
2018年にリクルートへ中途入社。以後一貫してWeb・インターネット業界の企業の採用支援に携わり、これまで延べ100社以上の支援を経験。現在は同業界の企業を中心に担当している組織のチームリーダーを務める。
リクルートエージェントでは、A社からの依頼を受け、求人票に記載された要件に合致する求職者を紹介していました。しかし、書類選考は通過するものの、事業部門による面接となると選考を通過しない状況が続いていました。A社の採用支援を担うリクルーティングアドバイザー(以下、RA)がA社の人事担当者と面談したところ、人事担当者も「なぜ面接を通過しないのか、自分たちも分からない」と首をかしげていました。
原因を探るため、RAは求人を出していたポジションの事業部門の責任者と直接対話する場を設けてもらい、求める人材要件を改めてヒアリングしました。すると、求人票に書かれていた人材要件とは異なる人材像を必要としていたのです。
理由は、最初にこのポジションで求人を出してから数カ月の間に、事業や組織の状況が変わり、事業部門にとって必要な人材要件も変わっていたためでした。しかし、そのニーズの変化が人事担当者に伝わっておらず、人事による選考は通過しても、事業部門による面接では「求める人材像とは異なる」という判断が下されていたのです。
そこでRAは、A社の事業部門との定例ミーティングを設定しました。採用に至った人が評価されたポイントなどをヒアリングし、随時「今、現場が求める人材像」を求人票に反映・更新していきました。その結果、採用数は前の四半期より数倍に伸長しました。
A社と同様、人事部門と事業部門のコミュニケーションが密に取れておらず、求人情報が更新されずに採用が進まないケースは多いと考えられます。特にIT・Webのプロダクトやサービスは変化のスピードが速く、開発や事業運営に必要な機能が変化しやすいです。
今回のA社のケースでは、転職エージェントと事業部門の連携によって問題解決に至りましたが、人事担当者と事業部門の責任者が定例のミーティングを設けるなどして情報共有の頻度を高めれば、今回の事例と同じような成果につながる可能性があります。人事担当者が事業部門の変化をこまめにキャッチアップし、求人情報をアップデートしていくことで、必要な人材の採用につながりやすくなるでしょう。
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