優秀だが昇進できない人 採用時と入社後の「評価のズレ」は、なぜ起こるのか?働き方の見取り図(1/4 ページ)

» 2024年08月27日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 「あの人は優秀だ」と誰もが認めるような人が、入社後、会社からあまり評価されないケースがあります。さほど優秀ではなかったと思われる人の方が評価されて、先に出世することもあります。

 採用時、会社は志望者が提出したエントリーシートや職務経歴書、面接などを通して、受け答えの的確さやコミュニケーション力など、総合的観点から採用可否を判断します。その際、評価軸となるのは、当然ながら「人材の優秀性」です。どんな会社も、できる限り多くの優秀人材と出会い、優秀性を見極め、どうやって入社してもらうかに一生懸命です。

 ところが、いざ会社に入ると、冒頭に示したようなケースが往々にしてあります。このような採用時と入社後の評価のズレは、なぜ起こるのでしょうか? 理由をたどっていくと、社員マネジメントにおける日本企業の課題が浮かび上がってきます。

優秀な人材が入社後に評価されない理由は? 写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


トップ営業のAさんが昇進できなかったワケ

 会社は常に業績目標を追いかけ、他社との競争にさらされています。業績を向上させ、他社に勝つために優秀な人材を欲するのは当然です。しかしながら、一度会社の中に組み込まれると、組織としての成果を最大化させるための行動が求められます。

 例えば1カ月のキャンペーン期間中、顧客に必ず新製品の案内をするよう営業所長から指示が出ていた場合。2人の営業職、AさんとBさんの違いをもとに考えてみましょう。

 トップ営業のAさんは、新製品をあまり良いものだとは思っていませんでした。既存製品の方が顧客の要望に応えられると思い、キャンペーン期間中も新製品の案内ではなく既存製品を中心に提案したところ、1カ月で大きな売り上げを立てることができました。

 一方、Bさんは所長の指示通りキャンペーン期間中に周った全ての顧客に新製品を案内したものの、売り上げではAさんに及びませんでした。キャンペーン期間が終わった後、営業所長はAさんとBさんを呼び、この1カ月の営業報告を受けました。

 まずは、Aさんとのやりとり。

所長:「この1カ月の報告を聞かせてくれるかい?」

Aさん:「大口受注を2つ獲得できたので、売り上げ目標を大幅に上回ることができました」

所長:「売り上げ成績は今月もトップだったね」

Aさん:「お客さまの要望にしっかりお応えできたと思います」

所長:「新製品の案内についてはどうだい?」

Aさん:「既存製品の案内で大半の要望に応えられたので、チラシをお渡ししたのは数社です」

 続いて、Bさんとのやりとり。

所長:「この1か月の報告を聞かせてくれるかい?」

Bさん:「全ての訪問先で新製品のチラシをお渡しし、特長や特典についてお伝えしました」

所長:「反応はどうだった?」

Bさん:「受注には至っていませんが、見込みになりそうなお客さまが3社あります」

所長:「ところで、売り上げ成績の方はどうだい?」

Bさん:「厳しかったのですが、目標はギリギリでなんとか達成できました」

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