市場の反応に対してフリーは機敏に対応し、2022年8月、決算発表と併せて中長期成長戦略を示した。わずか1年強で成長戦略を見直したのだ。
顧客獲得と顧客基盤づくりを戦略的目標として、(1)会計や人事労務というコアプロダクトに通ずる入口プロダクトの拡大(2)自社の営業・マーケティング組織の拡大(3)会計事務所や金融機関といったパートナー施策の強化――を掲げた。(2)(3)は、従来の強みであったネット直販という売り方とは違う、新たな展開である。
これらの推進のため、赤字拡大を許容し、営業利益率の黒字化を2025年6月期と明示した。
2023年度以降、フリーは果敢に投資を行った。2023年1〜6月で営業・マーケティング組織の人員を100人増強。さらにインボイス制度に対する需要を獲得するために、広告宣伝への投資を行った。加えて既存プロダクトの改良や新機能のリリースも行った。
例えば、支出管理や健康管理といった機能のリリースや、請求書プロダクトの機能強化による有料版リリースだ。2023年12月には、個人事業主が消費税申告を簡単に行えるプロダクトをリリースした。こうした取り組みにより、2024年度決算では、業績予想通りの売上高を上げ、調整後営業利益を改善トレンドに載せた。2025年度6月期で調整後営業利益を黒字化するためにコスト意識を高めた経営を行っている。
最後にここまでのまとめとして、マネーフォワードとフリーの事例から、ユニコーンからデカコーンに向かう成長戦略の仮説を以下の通り提示する。
(1)両利きの経営:巨大な市場規模を持つ新領域を探索する
両社は、失敗を含めて多様な新規事業創出活動を行っていた。一見非効率ではあるが、失敗も許容しながら探索活動をしたからこそ、成長の柱となった中堅企業向けERPという成長機会を察知することができた。
(2)ビジネスモデル:顧客の実態を正確に捉えた商材・営業体制が必要になる
中堅企業は、ERP全部ではなく、部分導入しやすいモジュール型のプロダクトと導入支援体制を求めた。マネーフォワードは中堅企業のこうした実態を正確に捉え、フリーに先行してモジュール型のプロダクトと直販部隊を整えたことで、シェア拡大につなげられた。
(3)ブリッツスケーリング:事業機会を捉えたら、他社に先駆けて市場シェアを拡大する
クラウド技術が進歩し続ける一方で、クラウド型ERPの顧客への導入は進まず、ギャップが生じていた。コロナ禍や法改正で、事業機会が突然現れた。この際、マネーフォワードは、躊躇することなく2021年中に10プロダクトを展開することで、ARR成長率を更に高めることができ、フリーとの逆転を実現した。加えて、マネーフォワードは、ERP利用から得られたデータを基に、フィンテック領域へと事業拡大することで、さらなる成長の可能性を示した。
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