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ショートドラマ人気の「必然性」 背景にある「新しい消費スタイル」とは?廣瀬涼「エンタメビジネス研究所」(3/3 ページ)

» 2024年10月28日 08時30分 公開
[廣瀬涼ITmedia]
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ショートドラマの課金 「いま見たい欲」を満たす

 インスタントで技巧を凝らしていない動画がSNSに溢れている中で、テレビで放送されているドラマや映画に比べたら質は落ちるが、他のネット上のコンテンツより質の良い動画が紛れていたら気になってしまうのではないだろうか。

 しかもBUMPやDramaboxがプロモーションとして投稿しているほとんどが、ドラマの切り抜きであり、言い換えればハイライト(面白い)の部分である。また、分かりやすいという意味では冒頭で挙げた『辰年!故郷への華麗なる帰還』ように、ほとんどの作品がベタで、予定調和的で、展開が予想できるものであり、視聴する側もストレスなく気楽に楽しめる作品も多い。

 一方で、縦型動画の性質やSNSの仕様で動画がリピートされることを意識して作られたコンテンツなども存在する。それらの性質を活用した動画ならではのエンターテインメント性を提供している作品も多く、他のメディアでは体験できない視聴経験ができる点も魅力だ。

 emole代表取締役の澤村直道氏は「いかに短時間で強い刺激を得られるかが最大の関心事。時間に対する心理的なハードルは以前とは比べものにならないほど上がっている」と、日経クロストレンドの取材で答えている。

 その中でも縦長のスマホの画面を生かし、縦にスクロールしながら読める「ウェブトゥーン」は1話ずつ購入でき、短い時間で手軽に読める点が若者の心をつかんでいる。確かに大手商業誌で成功しているマンガを購入するのと、通常待てば無料で読めるウェブトゥーンの続きを購入する意識決定は、同じマンガを買うであっても異なるだろう。

マンガを購入する行為も変わってきている(画像:ゲッティイメージズより)

 BUMPにおいても、1話97円で「話売り」する従量課金制が基本だが、最初の3〜4話は無料で視聴でき、その後は23時間経過するか、1日3回まで広告を見ることで無料視聴が可能だ。待てなかったり、広告を見て無料になる回数がなくなったりしたユーザーが、その日のうちに見たいとお金を払う。といったようにマンガアプリと同様のビジネスモデルが導入されている。

【訂正:2024年10月28日午後5時00分 初出で「1話67円」と記載しておりましたが、「1話97円」に訂正いたします。】

ショートドラマの人気、まとめると?

 今回はショートドラマアプリの人気について考えてみたわけだが、まとめると以下が人気の要因であると筆者は考えている。

  1. SNSで頻繁に動画の面白い部分が投稿拡散されていて、その続きを見るためにアプリをダウンロードすれば、一定数は無料で視聴できる。先が気になったら、数十円課金すれば、すぐ視聴したい衝動を解消できるという、ビジネスモデルが現代消費者のコンテンツの消費方法に合っている。
  2. 「消費するモノが多すぎて何を消費していいか分からない、長尺コンテンツを見て失敗したくない(時間を無駄にしたくない)、でもインスタントに娯楽への欲求を満たしたい」というニーズに対して、短尺で何かを見た気になる感覚を与えてくれる。
  3. 短い時間に起承転結が詰まっていて、メリハリのある展開が予定調和や、ドラマあるあるといった展開の予想のしやすさを生んでいる。中でも不倫や略奪、復讐劇といったギスギスした人間模様といった刺激のあるストーリー性の分かりやすさがある。

弱まる、コンテンツを消費する忍耐力

 一方で、エンターテインメント業界に向けたデータ・デジタルマーケティングサービスを提供するGEM Partnersの「映画鑑賞者調査」によると、74%が「見たい映画の上映時間の長さによって映画館での鑑賞をためらうことがある」と答えている。約4人に3人が上映時間の長さによっては映画館での鑑賞をためらうのだ。

上映時間区分別の映画館での鑑賞をためらう人の割合(画像:GEM Partners「映画鑑賞者調査」より)

 上映時間120分(2時間)以上で21%、140分(2時間20分)以上で33%、160分(2時間40分)以上で45%、180分(3時間)以上で63%がためらうと回答している。確かに筆者自身、上映時間を見てギョッとし、気合いを入れてから映画館に行くことが増えたのも事実であるが、コンテンツの長さ(拘束時間)だけを基準に鑑賞するコンテンツを決めるのは何とも味気ない。

 体感ではあるがショート動画が溢れるようになってから、コンテンツ消費における忍耐力や持久力のようなものが弱まった気がする。自戒でもあるが、消費できるものはたくさん溢れているのかもしれないが、その全てを消費する必要はない。それこそ、コンテンツを視聴する上で場所的制約はなくなったわけなのだから、常にタイパのいいコンテンツばかりを視聴するのではなく、分割して見るなどの工夫もできる。

 時間を理由に長尺動画から距離を取るのは、良質なコンテンツとの出合う機会を自ら放棄することになるわけで、それはもったいない行為かもしれない。

著者紹介:廣瀬涼

1989年生まれ、静岡県出身。2019年、大学院博士課程在学中にニッセイ基礎研究所に研究員として入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主なテーマとし、10年以上、彼らの消費欲求の源泉を研究。若者(Z世代)の消費文化についても講演や各種メディアで発表を行っている。テレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、TBS「マツコの知らない世界」、TBS「新・情報7daysニュースキャスター」などで製作協力。本人は生粋のディズニーオタク。瀬の「頁」は正しくは「刀に貝」。

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