一方で、フリーランサー自身も新法の内容を理解し、自らの権利を適切に守る意識が求められる。契約を交わす際に不明な点があれば企業側に説明を求めることが重要だ。また、契約内容や報酬の変更があった場合、文書での記録を残し、証拠として保管しておくことで、後のトラブル防止につながる。
加えて、業務負担や労働条件に問題が生じた際には、労働組合やフリーランサーをサポートする団体に相談することも考慮すべきだろう。個人事業主として働くフリーランサーは、一般の労働者と異なり、社会保障や福利厚生の対象外であることが多く、就業環境の改善や報酬交渉において、外部の支援を受けることがリスク軽減の一助となる。
ちなみに、委託元の企業から業務遂行時間や時給、成果物の制作に当たって一般の労働者と同じような指揮監督を受けているような場合、これは「偽装請負」と言い、労働者派遣法と職業安定法に違反する。
通常の業務委託契約は、制作のスケジュールや1日の稼働時間、作業手順について指示されない。フリーランス新法の内容以外にも、偽装請負のような周辺の法令分野においても知見を広め、権利と義務の両方を正しく理解しておく必要がある。
違反企業には公正取引委員会による指導や立入検査、罰金などがあるが、罰金額は最高でも50万円にとどまる。これらの罰則が実際の抑止力として機能するかは不透明だ。罰金額が低めに設定されると、資本力のある大きな企業にとってはそれが負担とならない可能性があるため、その実効性に疑問を抱く声もある。
さらに全ての企業取引を監視することが現実的に難しいことも、実効性の限界を示唆する。公正取引委員会による立入検査などの監査は、外部報告やフリーランサー側からの相談がない限り行われないことがほとんどだ。結果として「バレなければ問題ないし、バレても少額の罰金で済む」と企業が新法を軽視し、不適切な取引が放置されるリスクは残っていると言えるだろう。
フリーランス新法の施行は、フリーランスと企業の関係を見直し、取引の公正性と労働環境の向上を図る重要な一歩だ。しかし、法が想定する効果を十分に発揮するには、罰則の厳格化や監査体制の整備といった、さらなる改善が必要だと考えられる。
罰金額や監視体制の改善が不十分な現状では、法の実効性が薄まり、フリーランサーが不当な扱いを受けることが懸念される。筆者が見聞きするパターンの多くは、フリーランサー側に法令面の知識や相場観が乏しいことを発注者側が逆手に取り、無意識のうちにフリーランサー側に不利な条件をのませているものだ。
フリーランサー側も知識をつけ、双方がより緊張感のある対等な契約関係であることが求められる。
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Xはこちら
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