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生成AIで請求管理を効率化 データで予測できる「与信管理の未来」とは?「負の業務」をなくす(1/2 ページ)

» 2024年11月12日 08時00分 公開
[中西享ITmedia]

 業務の中でもとりわけ煩雑な決済業務。この効率化と決済データを活用した予測モデルの構築という先進的な挑戦が始まった。

 20年以上にわたって企業の決済データを蓄積してきたノウハウと、定期課金システムに優位性を持つROBOT PAYMENT(ロボットペイメント、東京都渋谷区)と、東京大学松尾研究室発のスタートアップで、生成AIに特化したサービスを民間に提供しているneoAI(東京都文京区)が業務提携。この挑戦と計画を実践しようとしている。

 ROBOT PAYMENTの清久健也社長と藤田豪人執行役員、neoAIの千葉駿介CEOに、生成AIを活用する狙い、将来的に企業の請求管理業務がどのように変貌するかを聞いた。

清久 健也(きよく・けんや)1992年東京大学工学部卒業後、電通に入社。00年米国決済企業の子会社代表に就任、同年にROBOT PAYMENTを創業して現在まで代表取締役。山口県出身。54歳。
藤田 豪人(ふじた・たけひと)07年プロトコーポレーションを経て、複数の企業で新たな事業や組織を立ち上げ、18年カオナビ入社。執行役員コーポレート本部長として東証マザーズ市場(現、グロース市場)へのIPOをけん引。19年よりROBOT PAYMENT執行役員。愛知県出身。46歳。
千葉駿介(ちば・しゅんすけ)2024年に東京大学工学部を卒業、日本のAI研究の第一人者である松尾豊教授の研究室 研究メンバー。卒業する前の22年にneoAIを創業、生成AI事業の立ち上げや日本企業のAI活用を数多くリードする。neoAI社のCEOを務める。専門はDiffusion Modelへの人のノウハウの学習。Forbesの「JAPAN 30 UNDER 30 2024 世界を変える30歳未満」に選ばれた。神奈川県出身。24歳。

多岐にわたる請求管理 与信予測モデルの仕組みとは?

 企業の請求管理業務には、購入者の顧客管理、購入者の中でどの顧客が支払いをして誰が未納なのかをチェックする突き合わせ(消し込み)、支払いをしていない顧客に対する督促など幅広い仕事がある。これを怠ると、売り上げの減少にもつながり、企業の活動に勢いがなくなるため、最も重要な業務の一つだ。企業の拡大と比例して、受注企業への請求管理件数も増加するので、人件費が増大するという課題も生まれやすい。

 こうした業務をROBOT PAYMENTのような決済システムを提供する企業に委託すれば、人手の掛かっていた請求管理業務から開放されて、コストも軽減できるメリットが生まれる。

 同社は、請求管理業務の自動化サービスを推進している企業だ。今回neoAIと業務提携することによって、個社ごとに与信予測ができるモデル作りに挑む。2000年設立の同社は、2021年9月に東京証券取引所のグロース市場に上場した。年商は約22億円で、顧客数は8月14日現在で9167社。顧客の中には毎日新聞社、産経新聞社、プレジデント社などマスコミ関係の企業も含まれていて、新聞購読のように月ぎめで料金を請求する定額課金の決済サービスを得意としている。

 これまで、請求管理業務の中の一部については会計ソフトなどが販売されてきたものの、請求管理の業務フローを一気通貫で管理できるシステムはなかった。これをいち早く手掛けてきたのがROBOT PAYMENTだ。サブスクペイと呼ばれる定額課金サービスを、20年以上にわたって手掛けてきた。対象となっているのは新聞社や塾など中堅中小企業が多い。

サブスクペイと呼ばれる定額課金サービスを、20年以上にわたって手掛けてきた(プレスリリースより)

 主に請求から催促まで任せられる決済代行サービス「請求管理ロボ」も、10年間手掛けてきた。枚数にして8万枚もの請求書データを保有しているという。このサービスには、事業者が保有している売掛債権などを期日前に一定の手数料を徴収して買い取る「ファクタリング」を活用できるシリーズもあり、ビジネスとしての広がりが期待できる。

 一方、2022年に東大の松尾豊研究室の学生が立ち上げたneoAIは、日本企業の持つ豊富なデータを生成AIで実務に使えるように落とし込み、企業の業務効率化を目指している。現在の顧客はゆうちょ銀行、岩手銀行などの金融機関に加え、電力会社などインフラ系の企業だ。これらの企業に生成AIを使ったサービスを提供してきた。

生成AIを使って与信管理

 業務提携の狙いについて、清久社長は「お金の流れを半自動化して与信管理をできるようにしたい。過去に蓄積してきたデータを使って、その企業はどこまでの売掛金なら大丈夫かをAIに判断してもらうというものです。生成AIにこうした与信管理をしてもらえば、適切な売掛金の管理ができ、日本経済の活性化につながります」と指摘する。多くのデータがたまることによって「生成AIを使って、その企業の将来を予測できるようになる」とも話す。

 中長期的には「銀行取引などにある手数料などの障壁をなくしたい。世界の銀行が加盟している銀行間ネットワークシステムの送金インフラのSWIFTがありますが、このシステムは古くなっています。銀行など何層も経由してお金が送られているやり方を変えて、企業が拡大するスピードを加速させていきたい」と抱負を語る。

 藤田氏は、新たなビジネスも見据えているようだ。

 「スタートアップは大企業に比べて信用がないので、銀行から借りられる資金が限られることが多いのです。しかし、その企業の過去の支払いデータを保有している当社は、その企業を長年にわたり見てきているので、たとえ赤字になったとしても、将来を見通せます。このため、サービスを提供している企業に対しては、生成AIを活用してファクタリング(債権を買い取る権利)サービスも提供できます」

公認会計士が請求書発行 「負の業務をなくす」

 スタートアップの場合、急に売り上げが増えるなど、業務の繁閑の差が大きい。しかし、それに見合う形で人を雇うことはリスクも大きくなる。このため、担当の経理部門が繁忙時には猛烈に忙しくなってしまうのだ。

 「請求管理業務の中でノウハウが必要なのは、与信管理と債権回収のところです。その他の仕事をわれわれに投げてもらえば、その企業は繁忙時の『負の業務』をなくせます。こうしたニーズが、ここ数年で増えてきていますね。実際の現場では、公認会計士の資格を持った社員が請求書の発行業務をするなど、貴重な人材を無駄な仕事に使っている例もあります。本来こうした人材は、財務の分析など付加価値の高い仕事をすべきなのです」(藤田氏)

 請求管理業務の効率化に悩む企業は多い。こうした企業が請求管理業務をアウトソーシングすれば、貴重な人材をより戦略的な部門に配置できる。そうすれば売り上げ向上にもつながるのだ。

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