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生成AIを導入しても“社員が使わない” 「生成AIプロンプト道場」の奮闘(1/2 ページ)

» 2024年09月30日 08時45分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 生成AIを活用する企業が増えている。デロイトトーマツグループの調査によれば、プライム企業の9割弱が生成AIを導入済みだという。だが導入したはいいものの、実際に「活用」できているかを見ていくと、話は変わってくる。DX推進企業のテックタッチの調べによれば、生成AIを活用している1000人以上の大企業のうち、職場で生成AIを活用できているのは約1割という結果に。

 大企業を中心にこうした課題を抱える企業が少なくない中、独自の社内プロモーションによって生成AIの利用者を伸ばしたのが、資産運用会社のアセットマネジメントOneだ。同社では、2割台で横ばいが続いていた社内生成AI利用率が、8月末に41%に上昇したという。

 どのような取り組みによって利用率を伸ばせたのか。生成AIをいかにして社内活用しているのか。同社DX推進グループマネージャーの立花慶寛さんが、ソフトバンク主催の「生成AIユーザーコミュニティイベント」で講演した。

アセットマネジメントOneのDX推進グループマネージャー立花慶寛さん

社員間で「深刻な格差」 利用率をどう伸ばした?

 アセットマネジメントOneでは2023年6月、役員が号令をかける形で、生成AIをDXに生かす取り組みが始まった。同年9月には、ソフトバンクとの協業のもと、自社専用のChatGPTシステム「OneQ」(ワンキュー)の利用を開始。同時に全社員向け生成AI利用研修の提供や、ユーザー向け利用ガイドラインも策定した。

 2024年1月からはGPT-4 Turboを試験導入。利用分析やプロモーションの実施も始めた。このタイミングで、テキスト生成に外部情報の検索を組み合わせることで回答精度を向上させる「RAG」も取り入れている。このRAGの検証や、その他AIサービス導入に向けた検証は同年6月まで続けた。結果、最大9割ほどの回答精度を実現したという。

 このように、企業としては自社専用のChatGPTシステムを導入し、精度を向上させた。だが、新たな課題が浮上している。生成AIの性能や機能が向上しているにもかかわらず、社内での利用率が横ばいになっている問題と、社員間で利用格差が拡大している問題だ。

社内利用率は横ばいに

 2023年11月には、1週間の社員の利用率が25%を超えていたものの、2024年1月には20%を下回った。翌2月にGPT-4 Turboを本格稼働。20%台を取り戻すも、25%ほどで横ばいが続く。一方で、利用者の利用回数は2023年11月が約30回に対し、2024年3月には約50回に上昇している。つまり、活用できている従業員にとっては利用回数が増えているのに対し、活用できていない人との格差は広がった形だ。

 「この結果に危機感を覚えました。企業として生成AIを導入するからには、多くの従業員に使っていただき、多くの人の作業を効率化し高度化するものでなければなりません。ところが一部の人たちのみがフルで活用している状況だと、成果がトップラインで伸びていきません。『これはまずい』ということで、活用推進に力を入れていかなければいけないと思いました」(立花マネージャー)

 なぜ、社内の生成AI活用が伸び悩み、二極化してしまっているのか。プロジェクトを振り返ると、導入する側の意識が強かった一方で、一人一人の利用者に向けた啓発活動がおろそかになってしまった反省点が浮かび上がった。

 「導入側であるわれわれが自社生成AIの性能向上を追い求めるあまり、肝心の利用の呼びかけを一人一人にできていませんでした。性能向上を社員全員に一斉アナウンスしたところで、ユーザーはAIの専門家ではありませんから、どう使えばいいか分からず、置いてけぼりになってしまっていたのです。生成AIでできることを増やすことと、活用できるユーザーを増やすことは両輪で考えなければなりませんでした」(立花マネージャー)

師範役を育てる研修制度

 そこで始めた取り組みが、生成AIの利活用を促すデモンストレーションだ。「他社で高い効果があった事例を展開するデモ」「利用分析結果を踏まえたユーザーがやりたいことのデモ」「社内活用者の使い方を聞き横展開するデモ」「ベンダーによる先進的な活用事例を展開するデモ」の4つを主に実施した。

 立花マネージャーは、「ユーザーが知りたいのは隣の人がどう生成AIを使っているか。特に社内の先進的活用事例の紹介は効果的だった」と話す。

 そこで始めた施策が「生成AIプロンプト道場」だ。これは、生成AIの未活用者をターゲットにした、10〜20人単位のグループによるハンズオン研修。このグループ内で、社内の生成AIの活用者が「師範役」となり、未活用者にプロンプトを1から教えていく。プロンプトの書き方一つで回答が変わってしまう生成AIにおいて、その書き方を共有することによって、同じ精度で活用することを目指している。師範役は持ち回りにすることで、グループ全体の習熟度向上を目指す。

 こうして、一つのグループ全員が生成AIを活用できるようになると、そのグループで「弟子役」だった社員たちが、今度は別のグループの師範役として分散していく。連鎖的に師範役を増やしていくことによって、社内の生成AI利用者をさらに増やすのが生成AIプロンプト道場の狙いだ。

 また、例えば資産運用を行うグループには「運用成果を報告する際のコメント作成業務」を想定した「IR資料やWeb上データからの情報抽出」を事例として共有するなど、開催グループの業務に寄り添った内容にすることで、関心が高まり活用率が大きく向上したという。

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