そういう複雑な事情もあって、「技術の日産」は北米で人気のHV・PHVを売ることができず、ガソリン車を売り続けた。かくして『旧型車の売り切りを目的に奨励金がかさんだため、同期間の営業利益は9億円と99%減った』(日本経済新聞 8月24日)という最悪の販売パフォーマンスに陥ったというわけだ。
さて、このような話を聞くと、「ん? 待てよ、日産といえばPHVの優れた技術を持つ三菱自動車が傘下にいるだろ! なんでこれを活用しないんだよ」と首をかしげる人も多いだろう。
そうなのだ。そのような経営資源を活用し、経営判断ができないことが、技術自慢企業の最大の弱点なのだ。
本来、HVやPHVが人気という市場動向が見えてきた時点で、そこに合う形のものづくりをするのが筋だ。日産は2016年に三菱自動車の筆頭株主になっている。このグループシナジーを生かし、アウトランダーPHVをベースにして、ローグPHVを投入するのが普通の経営判断だ。
しかし、ここに踏み切ったと公式に表明したのは、今回の経営危機が見えた2024年10月になってからだ。三菱自動車の技術を活用して、2025年に北米初となるPHVを発売すると言い出したのである。
では、なぜこれほど追い詰められるまで、三菱自動車のPHV技術に頼らなかったのか。e-POWERに戦略を集中していた、長期的な視点でEV戦略を練っていたところなど、それらしい言い訳はいくらでもできるが、根本的なところを言えば、「技術の日産」というプライドを守るためだ。
「世界でも高く評価される先端技術を持っている」と常々自慢しておきながら、稼ぎ頭の北米市場で主力製品をつくるときに「三菱自動車の技術」を使ってしまったら、日産の技術者たちの自尊心、アイデンティティーは完全に崩壊してしまうだろう。
「バカバカしい、ビジネスでそんなこと言ってる場合じゃないだろ」と思うかもしれないが、大企業になればなるほど難しいのは、「自社社員のケア」だ。世界で何万人もいるようなグローバル企業をまとめ上げるには単に給料だけではなく、自分たちがこの会社を支えているという「プライド」であり、この会社に自分は必要とされている存在意義だ。それらを蔑(ないがし)ろにしてしまうと、会社というのは内側から崩壊してしまうものなのだ。
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