A社が求める人材を獲得できた要因は「経営層の決断」にあると考えています。経営層が、既存の賃金体系にとらわれずに決断したからこそ、採用目標を達成できたのです。
本連載の第3回では、スタートアップ企業の事例を取り上げ、経営層自らが採用現場に入り、主体的に関わることの大切さをお伝えしました。大手企業においても、経営層が採用課題を認識し、必要な決断をできるかどうかが明暗を分けます。実際、A社の事例に限らず、経営層が採用に踏み込んだ企業では、採用が進むケースが多いのです。
重要なポジションを任せる人材の採用においては、人事担当者が既存の人事制度の範囲内で取り組んでも、なかなかうまくいかないものです。A社でも、経営層が既存の人事制度にとらわれずに対応する意思を明示したことで、人事も積極的に活動することができたのです。
なお、経営層が決断すべきは、給与だけではありません。社内の意識改革、風土改革も重要です。異例の年収水準を出す決断をして、入社の承諾を得ても、それがゴールではありません。能力を発揮し、活躍してもらう環境を整えねばなりませんが、「異例の待遇」で入社してきた人には、過度な期待をかけられてしまうこともあります。それがプレッシャーとなり、早期離職につながることもあり得ます。
経営者は「自社の成長のため」という目的やビジョンを発信して組織に浸透させ、転職者の活躍を支援する体制を全社で築く必要があるといえるでしょう。風土やカルチャーは一朝一夕で変えられるものではありません。だからこそ、少しでも早く、今すぐにでも着手することが重要です。数年後、数十年後には、企業の採用力、成長力に差が表れるはずです。
一方で、「経営企画・事業企画・業務企画」などの経験を持つ人材に魅力的な給与を示し、社外から採用するのは先述の通り、困難を極めています。いま自社にいる従業員に事業の付加価値を高める取り組みに注力してもらうため、データ分析などの専門的な業務の一部はクラウドサービスなどを活用するのも一手です。
例えば、九州地方のある飲食店では、オーダーデータを有効活用するため、リクルートの管理分析システム「Air メイト」を使って需要タイミングを分析しています。売れ筋商品の分析や経営状況を可視化する機能を活用して、最も需要が高まる時間帯に売れ筋の料理を多めに作るなど、売り上げ拡大に向けてメニューの商品ラインアップや提供タイミングを見直したことで、客単価を想定よりも増やすことに成功しました。
組織のフェーズや業務の領域に応じて、外部からの採用のほか、社内人材の育成、ツールの活用と使い分けることが、求職者に魅力的な給与を示すための第一歩となるかもしれません。
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